2: ◆q7l9AKAoH.[saga]
2017/10/09(月) 03:46:13.06 ID:CdsvNY5b0
「ちース」
何だ、いたのかと声を掛けられて誉望はパソコンに向かったまま返事をした。
この後隠れ家では『スクール』のブリーフィングが予定されていた。
「遅刻する前に待機してれば遅れない! どうスかこの作戦!」
だからって遊んでんなよ、と言う顔をして。
こちらはきちんと時間をあわせてやってきた垣根はいつも通り手ぶら……では、なかった。
「なんか表で配ってたぞ。試供品だってさ」
いるか? と垣根は手にした小さなペットボトルを持ち上げた。
「いや、俺はまとめ買いしたコラボ飲料がまだ家に箱であるんで大丈夫っス。ノルマ一日二本なんで」
そう断って誉望が開けたリュックサックの口からペットボトルが二本浮いて出てきて机に並ぶ。
ラベルに書いてある美少女キャラが正面に来るようにきっちり置かれたのを確認して満足そうに誉望はパソコンに向かう。
世が世なら、それも正史なら大能力者として、その有能さを存分に発揮してパシられていただろう少年も。
なんの因果か。
レベル3相当の念動力をゲームをすることに全振りしてしまっては暗部組織の構成員の見る影もない、最早ただのオタクだった。
「ねえ」
「っス。いますよー。時間、まだですよね」
キーボードを叩きながらの返事に今度はため息が返ってくる。
「君じゃないわよ。彼は? 私、この後予定があるの。早くはじめちゃいましょう?」
さっきまでそっちに居ましたよ、と誉望に言われて部屋の奥を覗いた心理定規は首を振る。
ドアを開けて隣の部屋まで探しにいった。
あれーいませんでした? と誉望も後を追いかける。
「いないみたいだけ……ど、ッ!」
「うわっ何ス……か」
ガッとシャツを引っ張られて強引に振り返った誉望と。
驚いた顔のまま立ちつくす心理定規の視線の先には何だかおかしなものがあった。
きょとんとした顔で床の上に座り込んでいる子どもがいた。
迷子だろうか。
それにしてもどこから入ってきたのだろう。
暗部組織の所有する、オートロックのこの部屋に小さい子がいるなんておかしな話だ。
そのまま一瞬固まってから二人は壁の近くまで黙って移動した。
「(なんスかあのちっちゃい子!)」
ひそひそ叫ぶ(器用な真似をする)誉望の声を聞いて、目をこすっていた心理定規がため息をついた。
「(私にだけ見えてるんじゃないのね)」
どうやら彼女は自分が幻覚を見ているのではと思っていたらしい。
「(いやー誰かに似てる気がしませんか、あのちびっこ。見覚えがあるような、さっき探していたような……)」
「(そうね……あ。前に君も言ってたじゃない。能力者のクローンを作ってるって噂。きっとそれじゃない?)」
「(でもずいぶん小さいっスよ? あれか? 研究所で事故があって、生育途中で逃げてきたクローン体がエキサイティングな事件を引き連れてやってきた展開か?)」
とんでもないが、学園都市なら実際におきてもおかしくない妄想をこぼす。
誉望はどこか遠くを見ながら、いつもなら
「つまんねえこと言ってんじゃねえよ」とスルーされそうな話題を振ったが。
「(ねえ…もし、彼がもう一人居たらって想像してみて)」
「(もろもろ倍になるんスよね……困りますね)」
「(彼二人ぶんって絶対手を焼くわ。そっか。それで小さいのよ。場所も取らないしね)」
いつもは、割と組織内でもまじめなはずの心理定規がらしくない冗談を言って乗ってしまった。
ずいぶん強引に、下らない方面に会話の舵がきられていこうとしている。
「(おおっと、クローン説が信憑性を帯びてきたような……いやまさか、垣根さんがとうとう『未元物質』での禁忌の人体錬成に成功したんじゃ……垣根さんがコピーを作成したら小さいのが出来たのか?)」
「(馬鹿なこと言わないでって言いたいけど。やっぱりあの子、誰かさんの面影があるのよね……あれ? それじゃあ本人はどこに行ったの)」
まだ二人は現状を飲み込めていない。
タイミング悪く垣根がいないからうまく事態の説明が頭のなかで追いついていない。
そう言うことに二人はしたいようだが、実際に問題が目の前にある以上いつまでも無視はしていられない。
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