22:名無しNIPPER
2017/09/26(火) 08:58:16.64 ID:SjBa6GBgO
***
ざわめく街で、わたしはいつもひとりだった。
本当のわたしを誰も知らない…お父さんやお母さんさえも。
愛されていることは、わかっていた。わたしのためにお仕事を頑張ってくれていることも。だから、わがままを言うべきではないと知っていた。
いつだっただろう…最後に父や母の瞳を見つめて話をしたのは…
一人でも平気そうだと、よく言われる。たしかに、大抵のことは一人でできる。そういう意味では確かに平気だけど…だけどわたしはまだ、おとなじゃないんだよって、誰かに言いたかった。分かって欲しかった。
そんな気持ちの裏返しで、わたしはあなたに素直になれない。あなただけが、わたしのことをいつも、目をそらさずに見つめてくれるから。これって、わがままなのかな…
分からない。ただ、あなただけは特別。そう、特別…友情とも愛情とも少し違う。
あなたの前でだけは、少しだけ、こどもでいられる。
この気持ちを伝えるべきなのか…その答えは分かりきっているーー
わたしは、事務所の奥にある部屋の扉をノックした。扉の向こうから聞こえる「どうぞ」の声を聞くだけで、胸の辺りがむずむずしてしまう。
ドアを開き、正面のデスクに近づく。そこに座る彼のもとで軽く頭をさげ、
「おはようございます」
そう挨拶する。声は、いつも通りだったかな…いつも心配になる。変に緊張していたり、嬉しそうだったりしないだろうかと…。
頭をあげ、じっと彼の瞳をみる。
ダークブラウンの落ち着いた色。その瞳には微笑むわたしが映っている。
あなたの瞳には、いつだって、本当のわたしが映っているーー
今はそれだけでいい。なぜならわたしは
「おはよう、ありす」
「橘です!」
わたしは、アイドルなのだから。
おわり
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