七尾百合子「プリムラの花に、言の葉を乗せて」
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3: ◆TDuorh6/aM[saga]
2017/09/18(月) 20:01:07.97 ID:6BNrNmyXO




 はぁ……今日も言えなかったな……

 トボトボと足を動かしながら、私は自宅を目指していました。
 既に十二月を迎えた日本の夕方は、コートなしでは過ごせないほど冷たい風が吹き続けています。
 でもそれ以上に冷え切っているのは、私の心のせいで。
 伸びていく影は私を置いていくみたいに、どんどん勝手に先に行ってしまいます。

 事務所でのやりとりは、いつも通りありふれた会話。
 せっかく二人きりになれた時は、緊張しちゃって全然喋れなくて。
 他の女の子達と楽しそうに話している姿を見て、他の女の子達の事を楽しそうに話す貴方を見て。
 心が締め付けられるのに、言葉に出す事は出来なくて。

 貴方の事が、好きです。

 たったそれだけの、文字にしちゃえば十文字程度にしかならない短い言葉なのに。
 私はずっと、言い出せずに。
 今日もまたいつもと同じ道を歩いて、一人で家に向かって。
 何もないままさよならを言って、もどかしいまま不安を募らせます。

 名前を呼ばれるだけで嬉しいから。
 毎日会えるだけで充分だから。
 瞳が合うだけで幸せだから。
 今の関係が壊れてしまうのが怖いから。

 言い訳を並べて、涙を堪えます。

 きっと、今日もまたあの人の事を夢に見るのに。
 夢の中でなら伝えられるのに。
 現実の私は、怖くて言い出せずに。
 あの人と私の距離はかわらないまま、恋の花が咲く日は訪れない。




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