9:名無しNIPPER[saga sage]
2017/09/15(金) 18:57:47.15 ID:GkhDt2Oq0
前に、部の中でコンペティションじみたものをやったときのことだ。誰が提案したのか、或いはほぼ雑談の会場になっている部の現状を校長先生とか教頭先生に怒られたのか、顧問の先生が画力向上のためと称してそんなものを開いたのだ。
そうじゃなければ、本当の本当に先生の気まぐれか。真意はわからないけど、とにかく部内の皆で一枚のモチーフを制限時間内に書き上げて一番出来が良かった作品を選ぶというその催しで、案の定私は同率最下位の一部だった。
一票。それが私の絵に入った票の全てだ。
もちろん、自分の絵に票を入れるほどうぬぼれてなんかいない。そのときは誰かが適当に書いたのか、そうでなければ並び順を数え間違えたのか程度にしか思っていなかったけれど、今考えてみればその一票は、あの子が入れてくれたかもしれなかったものなのだ。
「……ぁ……っ」
涙が、止まらなかった。
私は確かに、この美術部を棄てた。どんな事情があれ、自分の幸せのために、そうすることを選んだ。
その選択自体を後悔するつもりはない。だけど。
――だけど、初めからここを牢獄だなんて決めつけていたことで、私は何か大事なものをとりこぼしてしまったんじゃないだろうか。
いつしか風に舞う小雪も止んで、雲の隙間から春の気配を微かに感じさせる陽射しが、足下を照らしていく。
そうしてうっすらと地面に積もった雪は、いつしか跡形もなく消えていく。落花が枝に還らないように、ただ不可逆の、この世にありふれた当たり前の一つとして。
自分が人生を語るなど、きっとおこがましいという言葉でも足りないのだろう。
だけど、それでも。
それでも、これからをアイドルとして生きるのなら、私は二度と近くにあるものを見失わないように、指の隙間から零してしまわないように、生きていきたい。
ただそれだけが、己の経験に学ぶことしか出来ない、愚者の私に出来ることなのだから。
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