37:名無しNIPPER[saga]
2017/09/11(月) 18:08:13.04 ID:4sMggCAno
ふいに携帯が鳴った。
見ると、事務所のプロデューサーからのメールだった。
来週に予定している収録の打ち合わせについての、○月△日××スタジオ集合云々といった事務的な連絡である。
幸子の担当プロデューサーは責任ある立場の人間にも関わらず言動はずいぶん軟派でいかにもなお調子者だったが、仕事となるといちいちマメで存外真面目な男であった。
そんなプロデューサーの送ってきたメールには、最後の方にさりげなく
『おばあちゃんの家はどうだ? 楽しんでるか?』
と一言添えてあるのがまた律儀な彼らしい気の利かせ方なのだった。
幸子はメールを読み終わるなりすぐ電話をかけた。
「あ、プロデューサーさん……実はボクもう家に帰ってて……はい……ええ、それはもちろん……楽しかったですよ……良い気分転換になりました……」
話し出してから、特に電話をかける用事も必要もなかったことに気付いた。
かと言ってここで「特に用はないです」と断ってしまえばただの寂しがりと思われてしまう。
そこで幸子は、「ボクのカワイイ土産話を聞けるなんてプロデューサーさんは幸せ者ですね」という体でごまかすことにした。
「聞いてください、ボクすごい発見をしたんです……おじいちゃんの手伝いで農作業をしたんですけど……畑仕事をしてるボクもとってもカワイイ……」
「川の水がすごく綺麗で……プロデューサーさんにも見てほしかったなぁ……アユを手づかみしたんですよ!……ボクじゃないですけど……」
「前、料理の特訓したじゃないですか……家族もみんな美味しいって言ってくれて……え? いや、肉じゃがだけです……それ以外の料理はまだ……」
「村に小さい子供がいて一緒に遊んでたんです……ペロっていう猫を飼ってて……これが全然懐かないんですけど可愛くて……ボクほどじゃないですけど……」
哀れなプロデューサーは忙しい業務の合間に十四歳の自慢話のような独り言を延々聞かされる羽目になった。
が、この男は輿水幸子という少女の扱い方をよく心得ていたので、時々茶化したり憎まれ口を叩きながらも話を最後まで聞いてやるのだった。
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