2:名無しNIPPER[sage saga]
2017/09/07(木) 16:56:46.35 ID:+EtVRVLso
真夜中だった。
どこからか、声が聞こえる。
はっきりとしたものではなく、耳元でもぞもぞと、こぼれる吐息に乗せたようなくぐもった声。
熱く優しく私の脳に染み渡っていく、聞き慣れた声。
“ひまわり” って。
向日葵「んぇ……?」
「あっ」
向日葵「……え……っ」
「…………」
向日葵「……なに、してるんですの?」
「……いや、えっと……その……///」
声の主は、まさか私が起きるとは思っていなかったらしい。
残念ながら今夜の私の眠りはいつもより浅かった。季節はすっかり夏。日中の暑さには心の底から参るが、夜だって決して過ごしやすいものではない。
とにかく今年は暑いのだ。暑いので寝つきが悪い。ついさっきまで起きていたという意識がまだ残っている。
きっと時刻はまだ午前1時ほど。明日は何も用事がないので寝不足を心配する必要などはないのだが、特別にすることもないので、いつも通りの時間に身体を休めていた次第だった。
布団が恋しくなる寒い季節とは……あの頃とはもう違うということを、声の主はわかっていなかった。
いくら低血圧で、一旦スイッチが切れてしまえば再起動に時間がかかる私とはいえ、こうも暑い夜に至近距離で人のぬくもりを感じるとなれば暑苦しいことこの上ない。
向日葵「……鍵はどうしたんですのよ……かかっていたはずでしょう……」
「いや……それは向日葵が悪いんだよ? 今日夕方うちに来たとき落としてったんだよ、ほら」
そういうと、私が普段使っている自宅用の鍵をちゃりっとポケットから取り出した。
視界はおぼつかないが、わずかな月明かりを反射する鉄の光がきらきらと目に入った。どうやら本当に私が忘れてしまったものらしい。
向日葵「……だからって、こんな時間に返しに来ることないじゃない……」
「……ぃぃじゃんかぁ」
声の主……櫻子は暗闇の中で、口をちょこんと尖らせて小声で文句を言った。
そういう子供っぽいところ、本当に昔から変わってませんわね。
105Res/202.45 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20