32:名無しNIPPER[saga]
2017/08/25(金) 03:14:55.48 ID:PY48O/Bg0
俺「幼馴染み様」
幼馴染様「はい」
俺「ひとまず,離れて下さい,このような姿を誰かに見られるわけにはいきません」
気づけば,彼女の慎ましからぬ胸が腹部に当たっており,彼女の潤んだ唇が,胸板に触れんばかりだ.
幼馴染様「え…あっ,申し訳ありません」
彼女は俺の胸板を軽く押して,反作用によって何歩か後退してから,縋るようにそばの木に手をついた.
幼馴染様「あぁ,私としたことが,平常心を失っていました.どうか,お許しください」
俺(こちらも平常心を保つのに苦労した)
俺「気にしていません.それでは,賭け事のことですが,俺は降ります」
幼馴染様「なぜです?」
俺「村への未練は,持ってしかるべきだからです.ええ,幼馴染様はそれを大切に持っていなければいけません」
幼馴染様「くるしいだけなら,もう要りません」
俺「本件が終わった後のことをお考えになってください.婚約の如何によらずとも,村への,未練は形を変えて,幼馴染様を幸せにするでしょう.あの丘の上のときのように」
幼馴染様「…」
俺「幼馴染様,下賤の身ではございますが天地明神に誓って,お約束します.貴族様について一から十まで調べ上げ,幼馴染様にご報告させてもらいます.必ず,幼馴染様がこの村を好きでいられるような,決心ができるはずです」
幼馴染様は,それから長い間,俺を見つめていた.
珍妙な髪型をしているが凡庸な農民の中身を,その奥まで見透そうとするようだ.
正直,だめかもしれない.
そうして,幼馴染様が微笑むのではなく,笑って言った.
幼馴染様「心底から信頼しようと思ったのですが,その髪型が邪魔をしました」
半ば失望,半ば納得した.都会が嫌いだと言っている人に,この髪型は逆効果もいい所だろう.
幼馴染様「保険はしっかりとかけさせてもらいます.私,男性との巡りあわせは良くないものですから」
俺「なんなりと.…待ってください.幼馴染様,誰かと付き合ったことあるのですか?」
幼馴染様「いいえ.ただ,想い人ができても,どうも鈍感な方ばかりでした」
俺「男というものは,自分の色恋には疎いものですね」
俺(俺なら確実に気づいてるがな)
幼馴染様は,ようやくいつも通り微笑んだ.
俺は,どこか満たされるような気がした.
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