女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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170:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:51:32.92 ID:jX7ap57O0



 僕はゆっくりを目を開く。いや、目という表現は仮のもので、僕がそう認識しているだけだろう。
 目の前に何かが浮いていた。そいつはわけもわからないことを叫び、消えていった。

 ……僕はため息のようなものをつく。
 こんな光景が続いていた。狂った者たちの、叫び声。苦しみぬいて、死を喜ぶ者の呪詛。
 ここには何もなかった。ほんとうに、なにもなかった。
 考えることはできた。だが、それをするのはひどく苦しい。後悔と、それと結びつく幸せな思い出。

 僕は長い夢を見る。そこには彼女がいた。卓也がいた。両親も、なにもかも、大切な人はみんなそこにいた。誰もが苦しまず、完全無欠の世界だった。
 でも、これは夢だと知っている。
 失われていく感覚がある。
 なにかを思い出そうとすると、同時に抜けていく感覚。
 魂の消耗。自我の崩壊。
 少しづつ削られていく感覚。狂気がすぐそこにあるのを、感じる。

 だから何も考えないようにする。思い出さないようにする。
 それでも狂気に溺れていく。縋りたくて、思い出を頭に浮かべる。それはその瞬間から、頭から消えていく。

 涙のようなものを流した。
 悲しくて辛くて。恋しくて懐かしくて。
 でも、全部諦めたんだ、と思う。それでよかったんだと、そう思う。
 ずっと同じ暗闇を見上げていた。ここにはなにも存在しなかった。
 僕はゆっくりと目を閉じる。

 そうすれば、彼女の声が聞こえる。
 僕にしゃべりかけ、嬉しそうにし、幸せそうな笑顔を浮かべる、彼女が。

『私たちだけの秘密!』
『今日、どんなことがあった?』
『キミは私にとって、大切な人だよ』

 そして僕は。


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