女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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166:名無しNIPPER[saga]
2017/09/15(金) 00:49:32.90 ID:jX7ap57O0
メイドが僕に反論する。

「なにを言っているのです? あなたにそんな価値はありません。雪様ほど犠牲の資質があるわけではないのなら、あなたの言い分は通りませんよ。身の程を知りなさい」
「関係ない。王よ、どうせ犠牲をはかるなにかを持ってきているんでしょう?」

 何かを言おうとするメイドを王が静かに手で制す。信じられないものを見る目をメイドはした。

「なにをなさって……?」
「おい執事。計測器をお前に持たせたはずだ。ここに持って来い」

 後ろから呼ばれた執事が顔を出す。執事は丸い機械のようなものをもって王の前に跪いた。

「ここに」
「よし。メイド、こいつでアレの魂をはかれ」
「……かしこまりました」

 明らかに納得がいっていない様子で、メイドは王の指示に従う。
 メイドが近づいてくる。抵抗はしない。
 彼女もなにも言わなかった。どうせ彼女の魂の値を上回れるわけがないと思っているのだろう。ほとんどのものがそう思っていた。だが王と、僕だけは違った。

「八百年……です」

 理解できないというメイドの声。化け物でも見るかのような、表情。
 けたたましい笑い声。王が笑っている。
 抑えきれないとでもいうように。積年の悲願が、目的が叶えられる瞬間が来たかのように。

「くくく、ははは。見ただろう、こいつは新人類だ! 八百年もあれば賢者から逃れられる! ははは、はははははは!」

 なおも王は言う。

「あいつは人類を再び地上に進出させようとしているんだよ。だがそんなことをすればどうせ争いが生まれる。人間はこの都市で生き続ければいいというのに! 発展など必要ないのだ!」

 解放されたような、そんな感情を王から感じる。そして、わかったことがある。王は賢者を嫌っている。憎んでさえいるかもしれない。そして地表への進出を望んでいない。
 予感がある。王は賢者に従っていないが、ボスは賢者に従っているのではないか? 内部で組織が分裂している? そして、地表探索でイレギュラーな異常が起きたのは。

「地表探索隊のワイヤーを切ったのは、あなたの手の者、か」

 確信があった。ボスがわざわざ無駄なことをするはずがない。失敗するとわかっているなら理由をつけて止めるか、そもそも計画を立ち上げないはずだ。ボスは組織をほぼ完全に掌握している。だが本物の敵対勢力は想定しておらず、スパイの潜入はたやすい。

「ああ、お前は地表に出たのだな? 魔素と適合しているのだから当たり前か。念を押して人為的なものに見えない細工をするよう、指示したのだがな。少ない情報からよく気付いたものだ」

 こいつは……!

「人を殺したんですね」
「未来のためだ。多少の犠牲は仕方ない」

 平然と王は言う。なんとも思っていない、口調。
 にやり、と王は笑う。

「そんなことはどうでもいい。お前はおとなしく犠牲になってくれるな? お前のようなやつは嫌いじゃない。お前の大事な女は生かしてやろう。外に出すわけにはいかない。だが平民にはできない、贅沢な暮らしをさせてやろう」

 どこまでも傲慢な言い方。だか従うしかなかった。たぶん、約束は守られる。彼女は生かされる。僕の犠牲には意味がある。


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