女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/09/12(火) 18:41:25.81 ID:bdvuTYni0
◇
『世界全体は絶対に幸福になるべきで、されどそうはならないのが現実である』
その事実を許せないものがいた。争うのが人の性、資源が足りないのが現実。人は分かり合えない。宗教、言語、思想、各々の価値観。それらが大きな壁となって、世界全体の幸福を阻む。
もっとこうすれば少なくとも世界はもっとよくなるはずだ。しかし、その『少し』をすることは難しすぎる。世界は規模が広すぎる。個人では手に負えない。誰も世界を変えられない。
民族、宗教、政治。異なる価値観によって起こる紛争、夥しい死体の群れ。それらはすべて必要のないものだった。
――そう思う白衣の男のことを誰よりも相対する男は理解していた。
白衣の男は、同じ思想の者たち、そして己を犠牲にすることによって星を呼び寄せた。星を本来の用途から別の使い方へと堕落させた。
男は白衣の男の思想を知っていた。最大の理解者だった。尊敬していた。そんな恩師ともいえる相手の表情をみると――胸が痛んだ。
――大いなる星が地表に堕ちる。
星は本来、人類への贈り物。しかし、それは人の滅亡のために利用される。もう、星は堕ちた。人の滅亡は、確定してしまった。
「私が正しい」と白衣の男が言う。
人間賛歌。肯定と肯定と肯定。人は理想の姿に生まれ変わる。普遍的な価値観は共有され、争いは最低限にしか起こらない。誰も無意味に死ぬことはない。互いが互いに権利を認め合う。そこには嘆きだって、差別だって生まれる。だが、最小限なのだ。綺麗事を限りなく現実で成功させる、現実に迎合した理想。
誰もがその理想を肯定した。「価値観の壁などの障害さえなければ可能かもしれない」と、誰もが諦めた。
相対する男は滅んでいく命を見つめていた。世界がかわるための犠牲だ、と白衣の男は言った。
男はそれに対してこう反論した。「あなたの思想はすぺてが間違っているわけではない。だが、結果が保証できないうえに行為が他人を踏みにじるものである以上、間違っている」と。
白衣の男の体の一部が、劣化した建造物のように崩れ落ちた。星を呼んだ代償が、彼の体を蝕む。
彼は目の前の男を、見つめていた。
「もうとめられやしないさ」
死んだような声音で白衣の男は言う。
男は首を振った。
「後悔、してるんですか?」
「……」
「人を何千億と殺して、それで胸が苦しみを訴えて、それなのになんでこんなことをしたんですか」
「私は……」
世界は幸福に包まれるべきだと頑なに信じた男がいた。しかし、そうはならないのが現実だ。……許せなかった。
「罪悪感に耐えられないから、それで死のうと思ったんですか?」
白衣の男は、自分にとって恩師だった。親近感と、感謝の念を抱いてさえ、いたのに。その死を見つめなくてはならない。罪深いこの人間を、誰よりも理解していたのに。
――白衣の男の一部が崩れ落ちる。
「そうだ」
足は一本たりとも残ってはいなかった。片腕はもげていた。耳がひしゃげている。指を動かせば、それは直ちに失われた。
星が堕ちていた。苦しみの声が溢れかえる。
怨嗟の声が鳴り響く。殺せ殺せと泣き叫ぶ。
「人が死んでいるんだ」と白衣の男が言う。
恨みの声が聞こえる。何かにはけ口を求めている。私はそのために殉じる。信じてくれないかもしれないけど、これは罪滅ぼしなんだ。全く足りていないかもしれない。けど、私にできることはこれだけなんだ。
そんなことを、言った。
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