女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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名無しNIPPER
[saga]
2017/09/11(月) 22:55:33.91 ID:L2VEMbba0
なにもできていない、成せていない。現実的になにかをするのは無理だ。帰れたところでじき、力尽きる。決して彼女を救えない。なのに……僕はなにをやっているんだろう?
徒労であることは理解していた。卓也に言った言葉はただの嘘だと、自分が一番よく分かっている。
「でも、人が死んだんだ」
一人、呟く。聴衆は自分のみで、誰も答えてはくれない。
「……それがどうしたっていうんだろう」
人が死んだ。確かにそうだ。だがそんなものは世の中に溢れている。意味もなく転がる死体。しっぽのちぎれた猫。翼が折れて飛べなくなった鳥の亡骸。
踏みにじられた蟻。汲み取られなかった意思。悔しさと失望の慟哭。
すべてすべて、それらはなにかを変える力を持たない。
「大切な人、だったんだ」
それがなんになる? 怒りや失望、嘆きと呪詛。感情が世の中のあり方を変えられるわけではない。常に世の中の変革は、理性と世情の方向によって任される。感情がなにかを救うなら、とっくに世界は、幸せで溢れている。
次に目を覚ましたのはやや硬い土の上だった。
背後に砂漠が見える。塔が近い。あと、数時間もすれば着きそうだ。
だが指一本すらも動かなかった。それは疲労、魔素による浸食が重なり、生み出している現象だ。
――体が熱い。
それでも前に進まなければ。そう強く念じた。
しかし、動けなかった。もう意思でどうにかなる段階を過ぎていた。
もういいや、と思う。ここまでこれただけでもまともじゃない。真っ逆さまに落ちていく崖に向かい続けて、正気を保っているだけましだ。むしろ僕は、ほめたたえられるべきだ。
そんな思いも次には否定が襲う。
だが、結果は出せていない。努力でなにかが救われるわけではない。結局、してきたことすべては無意味だ。
僕はゆっくり目を閉じる。
何も見えなかった。何もできなかった。
苦痛に喘いでいたのが、少し楽になった気がした。
――約束してくれ。
そんな声が、聞こえる気がする。
――気付けば僕は、再び立ち上がっていた。塔を見据える。
硬い、地面の感触。地面に立つ自身の脚。
ところどころに緑が見えた。小さく咲いた花。剥き出しの根。
なにかがかわっている。変化している。そのことになにかを期待しながら進み続ける。一歩一歩、進んでいく。風が吹く。生ぬるい、風。
防護服は一部一部が破れていた。だがそれでも、多少は僕の命を繋いでいるのだろう。
塔を目指して、ひたすら進む。
遠ざかっているような、近づいているような、奇妙な感覚。
おかしい、と思った。まともに足が動いていないのかもしれない。
そう思って自分の足を見たけれど、それはしっかりと役割を果たしていた。交互に繰り返される歩み。そして……。
ぞっとする。そんなばかな、と言いたくなる。
叫びたかった。だがそんな機能はとっくに喉にはないようで、音はでない。そもそも口が開いているのかも怪しい。
塔には近づけなかった。僕が狂っていて、幻覚を見ているのだろうか? 無理やり足を動かす理由をつくるために、だからこんなものが見えるのだろうか?
違う、と思った。塔は確かにある。そこにあるのにそこにはない、矛盾した感覚。強い存在感と空白。気付いた。ある、と確信しているのはやはり己の感覚で、そんなものは地表に出た時点でおかしかったのだと。
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