女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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136:名無しNIPPER[saga]
2017/09/10(日) 21:42:30.93 ID:02n9Gv6p0
 ◇



 二番の予想は外れた。先に体調に影響が出たのは卓也のほうだった。僕は彼に肩を貸してやり、なんとか前に進んでいった。
 彼は青い顔をして歩み続ける。できれば休憩しよう、と言ってやりたかった。だかそれが彼の命を伸ばせるものではない以上、なにも言えない。
 恐怖感が押し寄せる。僕にはなんの変化もなかった。だが問題はそこじゃない。
 ついに、彼女を助けるために人が死にそうなのだ。それは僕にとって、大切な人で、長い間一緒にいた人物で。
 お姉さんを助けるんだろう? と言おうとするのを飲み込む。辛そうな彼をさらに追い詰めるようなことを言いたくない。それにきっと、僕が言わなくても卓也はわかっている。

 ……どうすればいい?

 いい加減にしてくれ、と思う。なんど自分の無力感を感じればいいのだろう。もっと僕の能力が高かったら、完璧だったら。そしたら誰も死ななかったかもしれないのに。
 そして気付く。もはや、僕は卓也の死を確定させてしまっているということに。諦めてしまっていると、わかってしまう。

「俺は大丈夫だよ祐樹さん」

 卓也は努めて明るく言った。

 僕が彼を励まさなきゃいけないのに、年長者なのに、彼は彼女の弟なのに。
 突然卓也が力強く僕の肩を掴んだ。

「なあ、約束してくれ。俺が死んでも、祐樹さんは姉さんと幸せに過ごすって。それができなくても、祐樹さんは生き延びるって」
「……約束するよ。とにかく、今は前に進もう」

 自分が憎くなる。また、僕はなにもできない。
 遠い、遠くへと、歩く。気が滅入る。果てが見えない。
 見えるのは、どこまでも似た風景だ。いつまでも同じところにいるのではないかと、錯覚しそうになる。
 ごほごほ、と咳の音が聞こえる。肩にかかってるから迷惑をかけないためだろうか、卓也は僕とは反対方向に咳をした。……卓也の体調が悪くなっている。
 怖い、と思った。卓也が死ぬ。僕は責任を持てない。彼女もその両親も、きっと僕を責めない。だが僕は自分を許せない。絶対に、無理だ。
 ずっと考えている。なにか解決策がないかどうかを。だがそんなものはなかった。そんなことはわかっていた。だがそれでも、考え続ける。無意味で苦しい、救いようがない思考。それでもやめるわけにはいかなかった。

 ――人が一人死んでいったい何人助けられれば納得できる?

 彼女を救うために、命を犠牲にしている。それは確実性のない賭けのチップとしての使用だ。勝率は恐ろしく低い。それでも僕はかけた。それは僕が必要だと思ったからだ。
 僕はよかった。だが、できることなら卓也はその賭けをしてほしくなかった。
 思い出がある。親愛の情がある。

 ……しかし、彼は死ぬ。それが、現実。
 僕だけが、賭けをするべきだと思っていた。

 ◇


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