女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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103:名無しNIPPER[saga]
2017/08/31(木) 21:51:05.24 ID:iVDTxJdE0

「どうだ?」
「……」
「お前のここまでの行動、姿勢、照から聞かされたときは感動すら覚えたぞ。いきなりスーパーマンみたいなことをするわけでもなく、現実的に、できることだけをおまえは選択してきた。それはすなわち、英雄的な行動に酔っていないことの証拠だ。本気で助けようと思っていたんだろう。並みの人間ができることじゃない。しかし、運が悪かったな」

 ボスは笑わない。誤魔化すことはしなかった。

「この社会構造的に、おまえはなにをやっても無理だったんだ。−−仕方がないんだよ。だから、いい加減、諦めろ」
「……」

 なにも、言い返すことはできなかった。
 なにかを考える。僕はここから、なにをすればいい?
 取れる手段は、なにもかもが潰れていた。どこにも逃げ切れる場所がない。もう、どうしようもない。スラムに逃げたっていずれ捕まる。その期間で、ほかの犠牲者が選ばれ、彼女の犠牲は止められるかもしれない。だがそんなことをしたって、政府は例外を許さない。きっと僕らは晒し者として殺されるのだろう。あの、いつかの娘を救おうとした父親のように。そして巻き込まれた、ほかの血筋のものたちのように。
 だから、レジスタンスはどうしても必要だった。しかし、ここは逃げ場所ではなかった。

「俺は『機械を目指す人間が欲しい』と言ったな。あれは本当だ。今回のことがなければおまえは後継者になる予定だったんだ。……今後の行動によっては、まだわからないがな」

 ボスはささやいている。諦めろ、と。そしてそうすればおまえにはこういう立場が用意されている、と。

「おまえは人のことを思うことができるやつだ。きっと組織をうまく導く。さらにおまえが頭になれば俺たちの行動による『犠牲』をうまく減らせるだろう」

 きっと、どんな人だって僕がなにをすればいいかなんてわかる。彼女も同じことをいうだろう。
 だって。
 彼女のことを諦めるのだ。不可能なことだと、仕方がないと。彼女は犠牲になる。ならせめて、彼女の意思を継ぎ、誰かのためになることをしなければならない。優しくあらねば。
 結局、組織を継ぐことは影の中でしか見えないとはいえ、英雄的行動には違いないのだ。
 英雄。超人。完璧者。
 僕の目指したものの一つの形とも言える。
 そのかわり何かを諦めている。だがそれがいかにも、現実的だ。

「僕は――」

 ――もう、選択肢は一つしか存在していなかった。
 いやだいやだ、と心の中で悲痛な声がする。
 まだ諦められない。

 必死で考える。なにもない。バカげた妄想が頭に浮かぶ。僕は英雄のように、強大な力をもって彼女を救う。歯向かうものは皆殺し。強い強い、そういう魔法のような。
 嫌になる。
 なにもかも。
 何もできないことが。
 なにもできなかったことが。

「僕は――」


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