16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/08/05(土) 05:12:15.56 ID:DkEnKQtk0
「……どったの、琴葉?」
気づけば、恵美が不安そうな表情で自分のことを見つめていた。
上げかけていた手を降ろし、琴葉が「ううん、なんでもない」と首を振る。
大切なのは、重要なのは、人生と言う期限が切れるその日までに、
この他愛のない日々――日常を――どれだけ積み重ねていけるかではないだろうか?
『よかったら、このままカラオケに行ってみたりとか……ダメかな?』
そう言って無理に、今日と言う日を特別な日にして終わらすこともできただろう。
だが、琴葉はそれを選ばない。その気になればいつでも言えるワガママより、
いつも口にしているからこそ、大切な約束もあるんじゃないか……?
軽く手を振り、家路につく親友の背中を見送って……。琴葉もまた、歩き出す。
今日は柄にもなくはしゃぎ遊んだので、ぐっすりと眠れることだろう。
そして目が覚めた彼女が向かうのは、仲間が待っている劇場なのだ。
明日も、明後日も、そのまた明日も。
期限が切れるその時まで、続けていければ良いなと思う。
……だからこそ彼女はいつも通り約束し、今日と言う一日を終えることにした。
それが一体、どんな約束だったかと言うと――。
「また明日、劇場で会おうね!」
実に他愛のない約束である、守るのも容易い約束である。
けれども、日々叶えるだけの価値がある。
日焼けした肌を夜風にさらし、道行く琴葉は上機嫌。
見上げた夜空に鼻歌を添え、それは彼女が家に帰るまで、決して途切れなかったそうだ。
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