千歌「──あの日の誕生日。」
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13: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2017/07/31(月) 23:45:16.70 ID:qA4i4zbEo


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──私と果南ちゃんは物心ついたころから幼馴染だった。

お母さんや志満姉曰く、おしゃぶりをしている頃から二人で遊んでたみたい。

旅館とダイビングショップって、お客さんも被る……というか旅館側から積極的に紹介するレジャーだから、結びつきも強くて、

果南ちゃんのお家とは私達が産まれる前から家族ぐるみの付き合いだったみたいでね。

どっちかの家が忙しいときは二人一緒にどっちかの家に預けられて世話されてたことも少なくなかったみたい。

『千歌ちゃんは果南ちゃんのお母さんにおしめの交換とかしてもらったこともあるのよ』なんて志満姉に言われて、なんとも複雑な気分になったこともあったっけ。

そんなわけで私と果南ちゃんは家業の影響もあったし物心付いてからも自然と二人で遊ぶことが昔から多かったんだけど、

もちろん夏の繁忙期なんかは仕事の邪魔になるチビのチカは家から追い出されて、外をぶらぶら、暇さえあれば砂浜を駆け回ってた。

そんなとき相手をしてくれたのは、淡島に住むずーっとチカのお姉ちゃんみたいな人の果南ちゃんだった。

今考えてみれば、果南ちゃんもお家の都合で暇だっただけなのかもしれないけど、

家の仕事が忙しい時期は毎日のように果南ちゃんと一緒に遊んでた。

8月1日。この日はチカの誕生日なんだけど、お察しの通り旅館は大繁忙期で朝から夜までチカの誕生日なんて忘れるくらい大忙し。

それが寂しいって気持ちはもちろんあったけど、家が旅館なのは生まれたときからそうだったし、そういうものだと割り切れていた。

何より、果南ちゃんが毎年おめでとうと言ってくれた。私はそれで満足だった。

二人で海の砂を使ってケーキを作って、そこらへんで拾ってきた木の棒を立てて、ロウソク代わりにして。

果南ちゃんが「チカ、息でロウソクの火消してごらん」なんて言うから、思いっきり息でふーってしたら、向かいの果南ちゃんに砂がぶわーってかかっちゃって。

でも、果南ちゃんは怒ったりはしなかった。

「息、吹きかけたらこうなるのか……」なんて言いながら、何故かそのまま砂のケーキを使って棒倒しが始まったり──あ、棒倒しってのは砂場で少しずつ砂を取っていって、棒が倒れた方が負けってゲームのことね。

ケーキのお城を作ろうって言って、二人で夕方までケーキのお城作りに励んだこともあったっけ。

自信作が出来たんだけど、結局波にさらわれちゃって、壊れちゃって。

それを見たチカは泣き出しちゃったんだけど、果南ちゃんは「壊れちゃったけど、また作ればいいよ。今度はもっとすごいのつくろ?」って言ってくれて。

そしたら、自分でも笑っちゃうくらいピタっと泣き止んじゃって。ううん、実際に笑ってたかな。

だから、家族がお祝いしてくれることはあんまりなかったけど、それでもこの日──8月1日、私の誕生日は私にとってすっごく特別な日だったんだ。

果南ちゃんと過ごす、すっごくすっごく大切な日。

……小学生にあがって、お互い家のお手伝いもするように──というかさせられるようになってからは毎日遊ぶってほどじゃなくなってね。

もちろん、学校もあったし、その頃には曜ちゃんとも友達になってたしね。

でも、それでも、誕生日はチカの中では"果南ちゃん"との特別な日だった。

──それであれは何年前だっけ。

私が小学校にあがってすぐくらいのことだったから、もう10年くらい前かな。

だから、その年も8月1日は果南ちゃんと一緒に遊ぶ約束をしていた。



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