映姫「霧の湖で、恋を知る」-SS速報VIP

映姫「霧の湖で、恋を知る」

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35: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:28:35.63 ID:RZsCc4M/0
「一人で居るなんて珍しいな。どうした？」
「あ、けーね。いたんだ」
「『いたんだ』って、あのなあ。お前たち生徒をここに置いたまま、教師が先に帰れるか？」

振り返ると、そこには、あたいの言葉に少し呆れ顔になったけーねがいた。

36: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:29:40.43 ID:RZsCc4M/0
「……そうか。告白されたのか」
「うん。誰から、って所までは言いたくないんだけど……ごめんね？」
「何、構わないさ」

「むしろ、そこをきちんと尊重できるのは偉いぞ？相手の気持ちをきちんと考えていないとできないことだからな」と言って、けーねはあたいの頭を優しくなでる。

37: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:31:00.46 ID:RZsCc4M/0
～～～～～～～～～～

初めてえーきに会ったのは、幻想郷一面がお花畑になったみたいに、たくさんの花が咲いたときの事だった。
会ったばかりのあたいに長々とお説教をしてくるものだから、最初は正直な所むかつくやつだとしか思わなかった。
後から知ったことだけど、みんなもあまりえーきのお説教は好きじゃなかったみたい。そうだよね。誰だって、むやみにお説教されたりするのはいやだもん。

38: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:32:55.97 ID:RZsCc4M/0
ふと、えーきの笑顔が頭に浮かんだ。えーきは普段真面目な顔をしていることが多いから、あまり見られない表情だけど、とっても可愛いからもっと見せてもらいたい。
一通りえーきとの思い出を振り返ったあと、あたいの心に残ったのは、そんな思いだった。

「……うん、思い出してみたよ。その人とのこと、いっぱい」

39: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:34:14.62 ID:RZsCc4M/0
～～～～～～～～～～

舞台は人里。周りに人はいるんだけど、二人は完全に自分たちだけの世界に入っちゃってる。
けーねとえーきは仲良くデートの真っ最中。えーきはお洒落な格好をして、あたいにも滅多に見せてくれないような満面の笑みを浮かべている。
二人はとっても楽しそうに色々なことを話してるんだけど、だんだんと周りの人気がなくなってくると、会話も減って、その代わりにえーきの表情がとってもうっとりしたものになって。

40: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:35:54.27 ID:RZsCc4M/0
寺子屋を出てみると、外はすっかり暗くなっていた。気付かない内に、随分けーねと長く話していたらしい。
「湖まで送っていくか？」と言われたけれど、あたいはこれ以上けーねに心配をかけたくなくて「大丈夫だよ」と自分の胸を叩いてみせた。
そんなあたいを見て、けーねは面白そうに笑っていた。

「じゃあ、私は行くからな。気をつけて帰るんだぞ」

41: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:37:31.62 ID:RZsCc4M/0
―文月ノ第三土曜日―

「……ひっく、ひっく、うえぇ……」

泣きながら酒を呷る四季様を眺めながら、あたいは頭を抱えていた。

42: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:38:57.70 ID:RZsCc4M/0
「小町はいいですよね……聞きましたよ。さとりとラブラブなんでしょう？」
「ラブラブって、そんな。いえ、そうじゃないと言ったら嘘になりますけど」
「そうなんでしょう？うぅ……何で、こんな、ズボラで、いい加減で、仕事をしない子にまで恋人がいて、私には……」
「いやあ、さとりはそんな私に尽くすのが喜びだって言ってくれてますし」
「のろけるんじゃありません！何ですか、分かりやすく鼻の下を伸ばして！」

43: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:39:53.10 ID:RZsCc4M/0
「たしかに四季様は説教くさいですよ。ええ、それはあたいだってそう思います」
「うっ」
「でもそれは、相手の事を本気で思っているから、敢えてそうしている訳でしょう？」
「は、はい……」

44: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:41:19.05 ID:RZsCc4M/0
―文月ノ第四日曜日―

ズキズキとした頭痛で、私は目を覚ました。当然、目覚めて早々から、気分は最悪である。
布団から起き上がり、周りを見渡せば、そこは自分の部屋。いつの間に寝てしまったのか、全く記憶がない。
胸がムカムカとするような気持ち悪さもあり、どうやら、昨夜はかなりひどい酔い方をしてしまったようだ。

45: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:42:15.56 ID:RZsCc4M/0
―――ごめんね、少し考えさせて。せめて一週間くらい―――

「あぁ！そうですよ！チルノ……うぐっ」

46: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:43:03.04 ID:RZsCc4M/0
（チルノは、今頃どうしているでしょうか）

布団まで戻り、倒れ込むようにして横になると、私は、彼女のことが気にかかった。

今頃、どうしているだろう。まだ、一人で私を待ちぼうけているのだろうか。

47: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:43:57.92 ID:RZsCc4M/0
まさか彼女がここに来るとは思っておらず、すっかり動転してしまった私は、彼女の顔を見つめたまま固まってしまった。
一方彼女は、そんなこちらの様子は全て分かっていると言わんばかりの様子で、私へ話しかけてくる。

「……お酒」
「え？」

48: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:45:05.56 ID:RZsCc4M/0
「今日は、本当にすみませんでした」

お茶を飲み終えて、ようやく一息つくと、私はまず謝罪の言葉を口にした。
何しろ、彼女との約束を、こちらの一方的な都合で破ってしまったのだ。
謝って許されることではないと分かってはいるが、それでも謝らなければ気が済まない。

49: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:45:45.63 ID:RZsCc4M/0
「本当に、ごめんなさい」
「その『ごめんなさい』は、何に対してのごめんなさいなの？」
「だから、今日の」
「さっきも言ったでしょ？今日の事は、あたいは怒ってないの。そうじゃなくて、怒ってるのは昨日の事だよ」
「昨日？」

50: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:46:43.57 ID:RZsCc4M/0
「ねえ、えーき。あのさ」
「何ですか？」

ひとまず落ち着いて、もう一杯チルノのいれてくれた麦茶を飲んで一息ついていると、チルノが何やらもじもじとしながら私へ話しかけてくる。

51: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:47:25.79 ID:RZsCc4M/0
言葉の意味を理解した瞬間、頭の中がスパークして、白く弾けたようなショックが、私の脳裏を駆け巡った。
正直に言って、嬉しさよりも信じられなさの方が先立ってしまい、私は自分自身の耳を疑ってしまう。
（チ、チルノが……私に、恋人になってほしいって……たしかにそう言ってましたよね。間違いないですよね！？）

「い、いいのですか？私なんて、全然、チルノの恋人としてふさわしくないのに。それに、チルノは恋愛なんて興味ないって」

52: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:49:47.54 ID:RZsCc4M/0
―翌年　文月ノ第四土曜日―

―――それから。

私たちの日常は少しずつ変わっていったけれど、概ねそれは全て上手くいっていて、私もチルノも満ち足りた日々を送っていた。

53: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 18:51:10.28 ID:RZsCc4M/0
今日も今日とて、一通り幻想郷を巡った私たちは、霧の湖のほとりで休憩を取っていた。
あちこち飛び回った心地の良い疲れを、湖の冷たい水で癒す。以前は一人で行っていたそれも、二人でならば尚更疲れが取れる気がする。

「今日も暑いですね」などとチルノへ話しかけつつ、ふと隣を見てみれば、チルノが何やら言いたげな様子でウズウズとした表情を浮かべていた。

54: ◆Uq/hUTiii9pg[sage saga]
2017/07/23(日) 19:01:22.25 ID:RZsCc4M/0
以上になります。お付き合いありがとうございました。

今回は、以前某所に投稿した「霧の湖夏恋歌―キリノミズウミカレンカ―」というお話を再度編集して投稿させていただきました。
久々に読んでみて、書き直したかった所を直せて満足です。

55:名無しNIPPER[sage]
2017/07/23(日) 21:42:24.43 ID:vPV2gCVYo
乙。涙が出た

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