ことり「前略 木漏れ日の貴女へ」
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4:名無しNIPPER[saga]
2017/07/21(金) 18:49:47.10 ID:+NyjqKO10

『絵里へ


 思い切って挨拶を抜いてみました。この方がしっくりくるのではないでしょうか。

 「かしこ」というのは、女性が手紙の末尾に使う、相手に謙譲の意を伝える表現のようです。

 推測になってしまうのですが……かしこまりました、に近いものがあるのではないでしょうか。

 いずれにしても、私相手に使う必要はありませんよ。


 母についてですが、実は手紙を出したいと言った途端に泣かれてしまいました。

 好きなことを書いていいから、いつでも手紙を出しなさい、というのが母の台詞です。

 新聞やテレビは見せてもらえませんが(というより見ようとすると私が拒否反応を起こしてしまいます)友人相手ならいい、と。

 ですので、母については気にしなくても大丈夫だと思います。


 さて本題ですが、3年前のあの日、私たちに「何か」があったことは覚えています。

 しかし、何があったか。どうして私はこんなに怯えているのか。一番大事なところが、霧がかかったかのように思い出せないのです。

 
 あの日、私たちは皆で山に登っていました。

 その途中で、その「何か」が起こったのです。

 私は穂乃果と2人で先頭を歩いていました。これは何となく記憶にあるのですが。
 
 私たちは、だいたいこのようなことを話していた気がします。


 ――「海未ちゃん暑いよー……。穂乃果水筒のお水なくなった……」

 ――「一度にたくさん飲むからでしょう。あんまり飲みすぎては後に響きます。次の休憩場所まで我慢しましょう」

 ――「うぅ……。わかったよぅ。……あ、綺麗な蝶!」

 ――「え、どこですか?」

 ――「ぷはあ! 生き返ったあ!」

 ――「ああ、こらっ! 飲みましたね!?」


 この記憶は正しいのでしょうか。


 この20日程、勿忘草の栞が目に入るたびに、妙な動悸がします。

 それに、チーズケーキ。好物の饅頭と一緒に届くのですが、最近は食べるたびに心のどこかで引っ掛かりを覚えるのです。

 
 栞と、チーズケーキ。きっとこの2つが、私が忘れている「大事なこと」に関係しているのだと思います。
 
 
 今さら、と思われるかもしれませんが。

 私は、私がここにいる理由が、真実が知りたいのです。

 3年間も迷惑をかけ続けているのです。

 願わくば、もう一度、立ち上がりたいのです。



 9月 19日

 園田海未』



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