33:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 21:13:35.66 ID:+eTeNEs7O
7.
色んなことがあった。
彼女と出会ってから。一年はあっという間に過ぎ、二年めはそれよりもさらに早く過ぎていった。
行く月日の中、いくつかの現場を巡った。しかし、自分たちのチームは運良く、家から通えないほど遠い地での作業を割り振られることはなかった。
だから彼女と一緒に帰る日は依然としてしばしばあって、帰り道の途中にコンビニに寄る習慣も続いていた。
二年という日々の中、変わりゆくものはほとんどなかった。ひょっとしたら気づけていなかっただけなのかもしれないが。
これから先も、こんな時間が流れて行くのだろう、そうであればいい。そう漠然と考えていた。
そんなこと、あるはずもないのに。諸行無常は定めだということを、大人になった自分は知っていたはずなのに。
変化の契機は、イヤに蒸し暑い夏の夜だった。月末の事務作業に追われ、早朝から出ていたのに夜の九時になっても帰れなかった。にじむ汗をタオルで拭き取りながら、空調もないプレハブでノートPCに向かっていた。
暑さを我慢しつつキーボードを叩き続ける。ようやっと全てまとまる目処が立ったところで、一度休憩しようと椅子を蹴った。
小屋の引き戸に手をかけると、さして力を込めていないのに勢いよくスライドした。吃驚した。
「うわっ!? ……ビビったー……親方かあ」
向こう側から、同じく扉を開けようとしている人がいたからか。夕方に退勤したはずの彼女がそこに立っていた。灰色のホットパンツに、丈の短めな黒いパンクTシャツ。服装は帰った時と変わっていない。ほんのりと自分とは違う汗の匂いもした。一旦帰ってもいないのか。
どうしてここに。
「……親方、まだいんかなーと思って。今ヘーキ?」
いつかのようにまた相談か、と苦笑しながら聞いた。
「ん……まあ、そうなるぽよ?」
彼女は笑わなかった。
自分でもなぜかわからない。
けれど、その彼女の顔を見て、何かを察してしまった。
頭をかいて室内を振り返る。平気ではないが。
付き合おう。ちょうど休憩するところだった。
ありがと、と、彼女はやっと小さく笑った。
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