6: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:41:39.03 ID:kFZGYhbt0
そのとき。
太陽が雲に隠れたのか、急にあたりが翳りだしました。
プロデューサーさんのデスクに差し込んでいた日差しが薄くなり、やがて消えて、まんべんない薄影がデスクを覆いました。
7: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:42:25.30 ID:kFZGYhbt0
私はいつのまにかこう思っていました。
あの隙間の中って、どうなってるんだろう。
静かに、でも確実に絶え間無く動く景色の中で唯一、変わらずにじっと立っているビル群。
あの隙間の中に、何があるのだろう。
8: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:43:16.72 ID:kFZGYhbt0
「……2人に頼もうかなって思ってたけど、藍子ちゃんお願いできる?」
不意に名前を呼ばれて、私は3人の方に向き直ります。
「えっ、何をです?」
9: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:43:43.49 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜〜
思わず転がってきたおさんぽチャンスに、私は心が踊っていました。
エレベータを降りるとき、エントランスから出るとき、私は間違いなくスキップしていました。
早速買ったばかりのカメラで、エントランスをパシャリ。
10: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:44:44.58 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜〜
小さなビル群は、すごく遠くに見えるけど、上から見たときよりも大きく見えました。
上から見ていた時はまるで不揃いのカステラみたいに見えていたのが、地上に降りてみると見え方が変わったのです。
見下ろす視点から見上げる視点。まだ遠いから、その視点はあまり上がっていないけれど。
それら小さなビルたちはまるで、大きなティッシュ箱みたいでした。
11: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:46:07.05 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜〜〜
4車線、合計8車線もある太い道路を、まだLED化されてない信号を目指して横断歩道で渡って、また暫く信号待ちをします。
渡りきるのに信号を2回待たなければいけませんでした。
2回目の信号待ちの間にも、私の前と後ろをトラックや乗用車が高速で行き交います。
12: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:46:47.32 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜〜
さっきよりは細い道路の、それでも信号待ちはちょっとじれったいから、丁度いい、歩道橋を使いました。
ちょっと古くて、手摺は錆びてて中身が見えちゃってます。
触ったら怪我しちゃいそうなので、触れないように気をつけながら階段を登ります。
13: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:47:25.25 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜〜〜
事務所から出て30分。結構歩いた気がします。お陽さまが高く登ってきました。
途中、方向を間違えたんじゃないかな?
と不安になりながら、さっきみたいな歩道橋の上から目的のビル群をギリギリ目視で確認します。
うん、大丈夫。ちゃんと近づいてる。
14: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:48:05.54 ID:kFZGYhbt0
ぼんやり、そう思っていたら視界の左下から小さめのボールがコロコロと転がって来ました。
それに続いてこれまた小さな男の子が、ボールを追いかけて来たのです。
さらに続いて、彼のお母さんと思しき女性が、男の子を抱き上げました。
「すみませーん!ほら、ダメじゃない!気をつけてって言ったでしょ!」
15: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:49:18.22 ID:kFZGYhbt0
〜〜〜〜〜
公園傍を通り過ぎてしばらく歩くと、事務所の近くほどではないけれど太い道路に再び出くわしました。
そして私はハッとします。近すぎてわからなかったけれど、ここが確かに私が事務所から見下ろしていたビル群の前なのだと。
事務所やその周りのビルと違って、四角くて背はそれなりに低いし、所々塗装がハゲちゃってるところもあります。
16: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga ]
2017/07/10(月) 23:49:50.41 ID:kFZGYhbt0
足元に注意しながら、ビルの壁を見ると、蔦が張っているのがわかりました。かなりの時間、放置されていたのでしょう。
蔦の張っていないところから見える窓は曇りガラスでしたが、中の何かの陰が動いているのを見ると、人がいるようです。
ビルの看板は聞いたこともない会社かお店の名前だったけど、その事務所が中に入っているのでしょうか。
壁の蔦以外にも、足元には雑草──ナガミヒナゲシ──が、ビルの壁と地面のアスファルトの隙間が破けたところを中心に群がっていました。
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