【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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78: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/07/28(金) 23:42:20.46 ID:23vyEUVD0
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 季節はめぐり、冬がやってきた。

 年末のウィンターフェスで、五人のユニットとしての活動はピリオドを迎える。
 ウィンターフェスの舞台袖で出番を待つ五人の顔には、それぞれにさわやかな充足感が見て取れた。
 俺はそれを少し離れたところから眺める。
 茜と比奈は、新曲リリースから今日まででいくつものステージを経験し、もう新人アイドルだった夏の頃のような緊張は見られない。
 春菜、裕美、ほたるも、夏に比べて一段と魅力を増している。
 その頼もしい姿を見ながら、ふと、俺は自分の心に寂しさのようなものが去来していることを自覚する。

「……どうしたんですか?」

 声をかけられてとなりを見ると、千川ちひろさんが俺の顔を覗き込んで不思議そうにしていた。

「なんだか、昔を懐かしむような、そんな顔をしていましたよ?」

 そう言って、ちひろさんは笑う。
 きっと、俺の思っていたことを判っているのだろう。

「このユニットの活動も、これで終わりと思うと……少し、寂しいですね」

「プロデューサーとしては初仕事でしたものね。親心みたいなものでしょうか? ……お疲れ様でした、プロデューサーさん」

「ありがとうございます」

「よくやってくれたよ、おつかれさま」壮年の社員がこちらに近づいてくる。「けれど、これからだ。これからも、彼女たちの道は続いていく。彼女たちの物語は終わりじゃない。けれど、プロデューサーの作った道があるからこそ、彼女たちは走り続けられるんだ。ここまで、ありがとう」

「はい」

 俺は舞台袖の五人を見る。もうすぐ前の曲が終わり、五人の出番だ。

「さあ、送りだしてやってくれよ」

 壮年社員に促され、俺は五人のところへ歩いていく。

「プロデューサー!」

 茜がぱっと顔を輝かせた。

「ついにここまで来たな。俺からはもう何も言うことはない」そう言いながら、俺は心の内で五人に向けてありがとうを唱える。「全力で楽しんでこい」

 俺が言うと、茜は右手を前に出し、そこに五人が手のひらを重ねる。

「全身全霊、全力でやりましょう! ファイヤー!」

「さすがにもう、リア充じゃないなんていえないっスね。やりきりましょー」

「今日の眼鏡は特別です! いつも特別ですけど、特別中の特別なんですよ!」

「この五人でやれてよかった! そう思うの、心から!」

「幸せです……本当に!」

 舞台袖のスタッフが片手を挙げる。

「よし、時間だ。行ってこい!」

 俺の声で、五人の手のひらはぐっと沈み。

「おおーっ!」

 そして、高く掲げられた。

 曲のイントロが始まる。
 スピーカーの音が胸を打つ。
 ステージのライトが明滅し、客席のライトは茜達の色になる。

 そして、五人は茜の掛け声に乗って光の海、歓声の波の内、輝くステージへと飛び出していく。

 俺はその姿を見つめていた。
 涙は流さない。きっと二度とは訪れないこの瞬間を、涙でぼかして観るなんて、勿体ないことをするわけには行かない。
 俺は五人の一挙手一投足を、一生忘れないように瞼に焼き付けた。



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