【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」完結編
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2: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/06/30(金) 23:15:43.38 ID:DzD82Pjh0
 駅の改札を出ると、荒木比奈は自分の腕時計を確かめた。
 待ち合わせの時間にはまだすこし余裕がある。
 比奈はあたりを眺めてみる。都心からそれなりの時間電車に揺られてきた初めての場所だったが、かなり拓けた街のようだ。
 駅もそこそこに大きく、改札の中にもいくらかの店舗が入っている。

 駅舎からはペデストリアンデッキを通して、南北それぞれの商業施設にアクセスできるようになっている。
 デッキの下に見えるバスターミナルもかなりの規模だ。

「思ってたより大きな街だったんスね……」

 比奈は誰へともなく言って、スマートフォンに地図を表示させてから、南側デッキのほうへと歩いていく。
 デッキに立つと、穏やかな西日が目に飛び込み、比奈は目を細めた。
 帽子を深めに被りなおして、デッキの欄干に背を預け、比奈はスマートフォンで周辺の情報を確認していく。

「フムフム……北側は繁華街っスね……カラオケボックス、居酒屋……リア充向けって感じっス。アタシのいる南側は……、大学、ホール……むっ、この書店、かなりの大型っスね……場所は……」

 比奈はスマートフォンから顔をあげて街を眺める。それから、目を見開いた。

「あっちのビル、アニメショップが入ってるっス……! それだけじゃない、レンタルと古本もあるっス!」

 比奈は腕組をすると、満足気な顔をしてひとつ頷いた。

「すごく、いい街じゃないっスか……!」

 力強く言ってから、比奈はふたたび時計を見る。
 待ち合わせの時間に余裕があるとは言え、さすがにショッピングに興じるほどの時間はない。
 比奈は後ろ髪引かれる思いを断ち切って、駅舎の中へと戻った。
 待ち合わせ時間までは十分弱。
 比奈は人から見つけられやすいところに立とうとして、プロデューサーから自分がアイドルとして活動していることを自覚するように言われたことを思い出し、目立たないように駅舎内の壁際に沿って立った。

「駆け出しっスし、オーラとかないんで、大丈夫だとは思うっスけど」

 小さくつぶやいて、スマートフォンに視線を落とす。
 画面はメッセージの着信を知らせていた。
 送信者は安部菜々。メッセージには『いま、早苗さんがそちらに向かってます! そろそろ着く頃だと思いますよ!』と、ウサギの絵文字付きで書かれていた。

「おまたせー、比奈ちゃんよね?」

 比奈が顔をあげると、そこにはキャップを被った片桐早苗が立っていた。

「あ、片桐早苗さん……スか?」

「そう! はじめまして!」

「はじめましてっス」

 比奈はぺこりと頭を下げた。
 片桐早苗は同じ美城プロダクションのアイドルの一人だ。トランジスタグラマーなプロポーションに、頼りがいがあるが、はじけているときは一人でもとことんまで暴走するような、ギャップのあるキャラクターで人気がある。

 今日は安部菜々の自宅で、オフまたは仕事上がりのアイドルを集めてパーティーが企画されていた。
 比奈と早苗はそこに招かれており、菜々の自宅を訪れたことがない比奈を、早苗が誘導することになっている。

「それじゃあ、挨拶はこのくらいにして、いきましょっか! せっかくのオフ、満喫しましょ!」

 早苗は比奈の背中を軽く叩いて歩き出す。

「はいっス」比奈は早苗のあとについて歩く。「……それにしてもアタシ、ホームパーティーなんてリア充っぽいこと初めてで……出てから気づいたんスけど、こんなカッコでよかったのか……」

 比奈はいつものジャージ姿で、両手を広げた。

「ホームパーティー!?」早苗は驚いたように言って、ぷっと吹きだす。「誰が言ってたのそれ、ただの宅呑みよ、宅呑み!」

「そうなんスか? 瑞樹さんがホームパーティーって」

「瑞樹ちゃんか、もー、しょうがないわねー」早苗は言って、けらけらと笑った。「あ、途中で買い出し頼まれてるから、荷物持ち手伝ってねー。もう全然堅苦しいものじゃないんだから、気楽にいきましょ、ほら、あたしだってなんてことない私服でしょ」

「……はぁ」

 比奈は拍子抜けしたように返事をした。
 早苗のボディコンは比奈にとってはカジュアルな服装の分類に入らなかったが、比奈はそれを口に出すことなく飲みこんだ。



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