105: ◆Y096V6Llx.[saga]
2017/09/09(土) 02:43:32.24 ID:aHM3ZFvi0
このままここにいても、何かあるとは思えなかった貴女は一人、ドレッドノートへと戻る。
広場に鎮座している時計の針が示す時刻は11時。
これから更に活気付く時間だ。
そんな時に自分のようなガキがいたら白けるだろう、という気遣いも、ちょっぴり含まれていた。
故郷では大人に分類されるが、ここジブラルタルではまだまだガキンチョと言われてもおかしくない年齢だ。
港に戻ると、幾つかの海賊船が新たに停泊していた。見たところ、ブリッグからフリゲートの範囲に収まるサイズだ。
この辺りは海軍も干渉しようとしないほど、海賊にとって都合のいい場所だ。
近くには交易を中心とした国があり、ここいらの海賊の役割はその交易ルートを護る自警団といったところだ。
もっとも、強制されているわけではないので、一定期間毎に交代するようになっている。
貴女の海賊団は、船の規模は大きいが人数が心許ないので、その役割は持たされていない。
というより、自由にさせてもらっていると言った方が正しいか。
話を少々戻すと、海軍が干渉しない理由はそこにある。
国自体が、交易ルートの保護を海賊に殆ど(実際にはほぼ全て)依存しており、海賊によるジブラルタルの統治も異常なまでに安定している。
治安がたいへん悪いのは海賊特有の血気盛んさが原因であって、民間人に被害が及ぶことは全くない。
なので、結果的に統治が安定している、ということになっている。殺傷事件も殆ど起きず、喧嘩程度で済んでいるのも理由かもしれない。
ドレッドノートの甲板に飛び上がると、既に明かりは消えていた。規則正しい生活を送るエリスは、眠りについているようだ。
船長室に入り、ベッドへと飛び込むと、先ほどの失態がフラッシュバックしてきた。
戦闘はできても、人一人迎え入れることができなかった自分の不甲斐無さに、苛立ちが募る。
やがて、それは限界を迎え、布団に包まりながら呟く。
「情けない船長だなぁ私は。エリスの方が船長らしいよ」
ここまで落ち込んでいる自分に、内心ショックが隠せていない。
が、突然布団を蹴飛ばして起き上がる。
「決めた!もっと名を上げてあいつらに、ここに入らなかったことを後悔させてやる!」
負けず嫌いということは、負けることがないように、ただひたすらに努力をする、ということ。
そして、負けた時は、負けた自分が情けないと思い、そんな自分を超えようと、更に努力を重ねていく、ということ。
船員たちは、そのひたむきさに惹かれ、船員になったことを、それが貴女の魅力だというのを、貴女自身はまだ知らない。
貴女が偶に見せる、年齢相応の無邪気さが凄まじい破壊力を持つことを、貴女自身はまだ知らない。
いつしか、貴女の沈んでいた心は、いつものように明るく輝いていた。
108Res/41.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20