11: ◆2mwK9kDO1Y[saga]
2017/06/10(土) 20:00:19.98 ID:EDLtVNMv0
「あなた、ボーっとして、どうしたの? 早く上がったら?」
「あ……ああ」
――この女は、誰だ?
その時は不思議と、そんな疑念はすぐに晴れて、いつもの日常として僕の脳内で処理されました
今思えば、一時的な現実逃避だったのかもしれません
あるいは、目の前で起きている出来事に、脳の処理がついていかなかったのかもしれません
「あなた、ご飯はできてるけど」
「うん、食べようかな」
ジャケットをハンガーにかけ、Yシャツのまま席に着きました
妻もまた、俺の反対側の席に腰かけます
一緒に、いただきます、と食前の挨拶をします
何もかも、いつも通りでした
ですが、その日常は、妻を失う前の、僕の日常でした
その日の夕食は、白米に豆腐の味噌汁、肉じゃがにお浸しと、ありふれた献立でした
ですが、肉じゃがは妻の得意料理です
得意というだけあって、妻の作る肉じゃがは格別でした
おいそれと、他人にマネできるわけがないのです
果たして、肉じゃがの味付けは、妻のものと寸分違わないものでした
「……君はやっぱり、君なんだね」
「何言ってるの? そんなの、当たり前じゃない」
「うん、そうだ。当たり前だね」
何も、不自然な点はみられませんでした
不自然な点がない事が、一番の不自然なのだと気が付いたのは、次の日の朝の事でした
85Res/56.93 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20