11: ◆TDuorh6/aM[saga]
2017/06/19(月) 21:15:00.65 ID:Ekk8e1lEO
「で、携帯電話だったな…これ、なんだけど…」
「…そう、でしたか〜…」
プロデューサーさんから渡された携帯電話。
その画面には、大きなヒビが入っていました。
おそらく、再び起動する事はないでしょう。
そのくらいの、損傷で…
「お前が倒れてた時、その手元の近くに落ちてたんだ…」
「そう、でしたか…」
朧げながらも、薄っすらと思い出すのはあの日の記憶。
プロデューサーさんに救ってもらった、記憶を失ったあの日の夜。
私は、必死にストーカーから逃げて…
何処だかも分からない道を、走って、走って、走り回って…
「おい、大丈夫か?!無理するな…落ち着くんだ…!」
「…え?わ、私は…」
自分の表情を確かめようと顔に手を伸ばしました。
ほ、ほら…笑えて、いませんか?
そう思って、いましたけれど…
伸ばした指は、目元で濡れて…
「大丈夫だ…俺がついてるから…」
「あ…」
ギュ、と。
プロデューサーさんに抱き締められました。
たったそれだけの事で。
私の心は、一瞬にして寂しさから救い出され…
「今度、カメラを買おう。今までの写真が消えてしまったのなら、これから幸せを増やせばいい」
「…はい…そうですね。素敵な景色を、幸せを、一緒に共有しましょ〜」
優しい、暖かい、プロデューサーさんの言葉。
ですが、私の心には一つの疑問。
少しですけど、思い出してしまったあの夜の事。
その瞬間、つい数秒前のあの瞬間。
なんで私は、寂しかったんでしょうか?
普通ストーカーに追われていたのだとしたら、怖い、と言う感情が当てはまる筈です。
これからどうなってしまうのか、と言う不安を覚えるのが普通な筈です。
なのに、どうして。
寂しさ、なんでしょうか?
その答えが、知りたい。
けれど、知ってしまったら。
今のこの幸せな一瞬を失ってしまう様な気がして。
私は幸せな今の為に、考える事をやめました。
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