1:名無しNIPPER
2017/06/04(日) 17:28:28.35 ID:uS13NFUz0
残業を終えて会社から帰る途中、どしゃ降りの雨の中でそいつは泣いていた。
長い青い髪のツインテール、よく知るその姿は人間ではない。
「VOCALOIDがこんなところで何を……」
VOCALOID。縮めてボカロなんて呼んだりする。
合成音声ソフトとして開発されたそれは、人々の欲求に応え、科学の発展と同じ速度で姿を変えた。
この世にヒト型アンドロイドとして顕現したのは、俺が中学生くらいの頃だったか。
俺が目の前に立ってもそいつは泣き止まない。
人とほぼ同一の声帯を持ちながら、その声はどこか動物の唸り声ように感じた。
「鳴」き止まないこれは、こんなにずぶ濡れで、一体いつからここにいたのか。
VOCALOIDは当たり前の事だが、風邪を引かない。
防水加工も、最近ではその言葉さえ廃れそうなほど一般的な技術になった。
どしゃ降りの雨の中でも、むしろ心配なのは仕事の疲れが染み込んだ俺の身体の方なんだが。
はあ、とため息をついて、そいつの傍にしゃがむ。
そこでやっと俺が居る殊に気づいたそれは、青緑の瞳を俺に向けた。
VOCALOIDでも泣くなんて知らなかったな。
瞳の色に反射した涙は少し綺麗だと思った。
「……お前、マスターは?」
「?」
「マスターだよ。 お前をこんなところに放ってどこに消えた?」
「……??」
「どうした?」
聞いても返事はない。
ただじっと俺の方を見ているだけだ。
「んー……?」
何故答えないのかは知らないが、これだって給料3か月分くらいは優に飛ぶ代物だ。
わざわざ置いていくやつもいないだろう。
「いきなり話しかけたのが、こんなおじさんで悪かったな。 お前のマスターもじきに来るだろ……っ?」
家路を往こうとする俺の袖を、小さな手が掴んだ。
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