1: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:55:11.65 ID:TDkutjQC0
これはモバマスSSです。
和久井留美と上条春菜と前川みくと佐城雪美のお話です。
完結済みなのですぐ終わります。
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2: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:55:34.27 ID:TDkutjQC0
ざーざー。ざーざー。にゃーにゃー。
「……っ!」
ざーざー。ざーざー。にゃーにゃー。
「……」
ざーざー。ざーざー。にゃーにゃー。
3: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:56:09.42 ID:TDkutjQC0
海をひっくり返したような鈍色の中に一つ。
整然としていたはずのかつての形を微塵も感じさせないほどに歪められて溶かされてしまった、街灯に照らされた『それ』は、か細い慟哭をその中から漏らしていた。
その声に足を止めてしまった者の宿命だろうか、『それ』の中を覗き込んでしまったが最後、和久井留美は声の主の瞳に射竦められたかのごとく魅入られてしまった――
4: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:56:42.72 ID:TDkutjQC0
「あの、和久井さん……これは、いったい……」
事務所に来た和久井留美は、その手にずぶ濡れの段ボール箱を抱えていた。事務所にいたプロデューサー、以下全員の目線がそれに向けられた。
「……」
5: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:57:12.09 ID:TDkutjQC0
「可愛いですねえ……!」
「ネコチャンが可愛いのは当然にゃ!」
「………………ふふっ…………ペロも…………喜んでる……………………」
6: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:57:50.04 ID:TDkutjQC0
「……ほっとけるわけないじゃない」
「うちじゃ飼えないけど、気持ちはわかる……これは抗えないわ」
はじめは複雑な顔をしていたプロデューサーも、今やこの調子だ。
7: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:58:20.02 ID:TDkutjQC0
「みくならこういう捨て猫を引き取ってくれるところも知ってそうだしね。任せるとしようか」
保護猫カフェ、というものをプロデューサーも耳に挟んだことがある。
「殺処分は避けたいもの、あとでみくちゃんに聞きましょう」
8: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:58:50.00 ID:TDkutjQC0
「はあ……ほんと可愛いわね……」
「ほんとですね……和久井さん、しんどくなったら言ってくださいね?」
「うん……ありがとうね、春菜ちゃん」
9: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 15:59:19.85 ID:TDkutjQC0
「にしても、猫アレルギーはつらいにゃ……みくだったら死んじゃうにゃ」
「……留美…………?」
「ごめんなさいね……さすがにこれなしだとまずいから……」
10: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:00:34.10 ID:TDkutjQC0
「そうですねえ……この子、この後どうしましょう?」
事務所で飼うわけにはいかない。かといって自分で飼うこともできない。それなのに連れてきてしまった。
冷えきって衰弱してしまうことを避けられたはいいが、後のことを考えていなかった。
11: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:01:09.07 ID:TDkutjQC0
猫の行き先のあたりがついたのはいいとして、問題は。
「はぁ……可愛い……くしゅん」
おそらくマスクで防げるであろう限界を突破しかかっている留美を、どう猫から引きはがすか、だ。
12: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:01:47.68 ID:TDkutjQC0
「うっ……もう少しだけ、もう少しだけお願い……」
こうなると咳き込みだすのも時間の問題なのだが、それを自覚しているのかいないのか、いずれにせよなかなか離れる様子がない。
「Pチャン……?」
13: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:02:13.25 ID:TDkutjQC0
無情にも、その時はほどなくして訪れた。
「ゲホッ、にゃー……ゲホッゲホッ」
「留美さん、それ以上はまずいです」
14: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:02:43.08 ID:TDkutjQC0
「はぁ……どうしてこうなのかしら……」
手を洗ってうがいをして、さらにちひろが救護室から持って来た目薬と点鼻薬をさしたあと、レッスン着に着替えた留美は仮眠室に寝かされていた。
服は洗濯されている。
15: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:03:14.70 ID:TDkutjQC0
子供の頃、学校からの帰り道で寄ってきた野良猫を三十分ほど撫でていたことがあった。
日も傾いてきてそろそろ帰らなきゃと思った頃には、咳も鼻水も止まらなくなり、帰った留美を見た母親は大騒ぎ。
『留美あんた何しちょったん!?』
16: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:03:46.62 ID:TDkutjQC0
「あの頃から変わってないわね……」
あれからも、たびたび道端で猫に構っては、母親に怒られた。
真面目が服を着て歩いていると昔から言われた留美だが、猫が絡むと話が変わるのも昔から変わらない。
17: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:04:25.88 ID:TDkutjQC0
「和久井さん、大丈夫ですか……?」
仮眠室の扉を開けたのは、上条春菜。
「ええ……まあ、どうにか」
18: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:04:55.61 ID:TDkutjQC0
「和久井さんも、猫好きだったんですね」
「ええ……」
「可愛いですもんね……」
19: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:05:39.57 ID:TDkutjQC0
「今回は特に、ですもんね……そうとう冷えてしまってて、和久井さんが拾ってなかったらどうなってたか……でも、和久井さんも猫も無事でよかったです」
「それはよかったわ、心配かけてごめんなさいね……」
「いえいえ。そうそう、猫はみくちゃんがさっきの店長さんに連絡してくれて、無事引き取っていただけるそうです」
20: ◆kqD/54aJTU[sage saga]
2017/06/04(日) 16:06:13.47 ID:TDkutjQC0
「じゃあ、この子はお店に連れていってくるにゃ」
留美が戻ってきたのを見計らって、みくは猫を連れて猫カフェへと向かった。
せめて見送りだけはさせてあげたい、という配慮だった。
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