八幡「真実が残酷でなければ、優しさは嘘でない」
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11: ◆O72Cu5n13Q
2017/05/29(月) 05:03:55.06 ID:w6VaETYg0
「……は? 何?」
「今から帰るところだろ? 悪いが少し時間をくれないか」
「なんで? なんかアタシに言うことでもあるわけ?」
「謝りたいんだ、いろんなこと」
「なっ」
相模の顔から嫌悪が消えて、一転驚きの表情を浮かべる。
敵だと思っているようなやつから握手を求められたのだから驚くのももっともだ。
「そういうことだから、歩きながらでいい。 付き合ってくれ」
「……ま、まあいいけど」
取りつく島もなければどうしようと思っていたが、なんとかなりそうだ。
教室棟の廊下にはホームルームを終えた生徒たちの声が飛び交っている。
喧噪のなかで、相模と二人で歩いていた俺は会話の切り口をいまだに見つけられずにいた。
当たり障りのない会話は必要ない、意を決して口を開く。
「謝りたいって、さっき言っただろ」
「……う、うん」
「言わなくてもなんのことかわかると思うが……。
「去年の文化祭の時、色々あっただろ。 信じてくれとは言わないが、悪意があったわけじゃないんだ。
ただ、俺は目的のためにわざとお前を傷つけた。 ……悪い」
チラリと相模を見ると、相模は俯いて黙りこくっている。
何かを考えているのかと思っていると、こちらに向きなおして言う。
「悪意が無かったとか、目的のために傷つけたとか、そんなこと言われても信じる気にもなれないし。
もしそうだったとして、なんで今更改まってアタシに謝んの? 意味わかんない」
その口調が予想外に落ち着いていて、少し驚いてしまった。
もっと激昂されるもんだと思っていたが、今までにコイツのなかで何か思うところがあったのかもしれない。
「だから、信じてもらえるとは思ってない。 ただ、言っておかないと気が済まなくてな」
「何を?」
「謝罪の気持ちを、だよ」
「……ップ」
俺の言葉を聞いた相模は、堪えきれなかったかのように吹き出し固い表情を崩す。
「あは、あははは、何それ」
「真面目に言ってるんだぞ」
「分かってるよ、だからこそ……プププ」
「あはははは! 『謝罪の気持ちを、だよ』って、ふっ、あははは」
俺としちゃ勇気を振り絞って言ったセリフなんだが、相模は俺のモノマネをしながらその言葉を言い直す。
もしかして、俺の黒歴史ノートに新しい1ページが刻まれちゃった?
「笑いすぎだろ。 お前はどう思ってるんだ。 俺の謝罪を受けてくれるのか?」
「許すとか、許さないとか、今はそんなんじゃないって、あはははは!
なんかもう……アタシが馬鹿みたいじゃん、これでも色々考えてたのに」
「……さいですか」
「ふー、ほっぺ痛い。 で、比企谷の言いたかったことってそれだけなわけ?」
「そうだが」
「『謝罪の気持ちを、だよ』ってことね、ぷくく」
「……ああ」
「じゃあ、アタシ友達待たせてるから。 また明日、フフッ」
そういうと相模は肩を震わせながら去っていく。
後悔はない。 ただ、謝罪してここまで笑われるとは思ってもいなかったよ。
それにしても……『また明日』か。
どれだけ笑われても、俺の勇気は間違ってなかったということにしておこう。
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