9: ◆OYYLqQ7UAs
2017/05/19(金) 09:31:14.47 ID:1MWb8Lrjo
「え、っと……き、綺麗な詩だよね! 追体験も堪能したし、そろそろもど」
「『月は聞き耳立てるでしょう、すこしは降りても来るでしょう』」
私の誤魔化しの言葉をさえぎって、さっきの部分より少し後の部分を、杏奈ちゃんが読み上げる。
それは私にとって核心の部分。杏奈ちゃんには、知られたくなかった部分。
私がそれを望んでいると知ったら、嫌われてしまいそうで、怖かった部分。
「百合子、さん」
「っ」
朗読ではなく杏奈ちゃんの声で呼びかけられて、身がすくむ。
拒絶の言葉を、想起してしまうから。
「月……頭の上、だよ?」
「えっ?」
そう言われて顔を上げて、初めて、杏奈ちゃんが微笑んでいるのが見えた。
スマホの画面光に照らされて、赤くなっている顔と、白いワンピースが見える。
そこでふと思い出す。
今日は私が彼氏役で、杏奈ちゃんが彼女役、と妄想してしまったことを。
であるならば、ここは私が勇気を出さないといけないところなのだろう。
いつも王子様を夢見る私だけれど、今だけは私が、杏奈ちゃんの王子様にならなきゃいけないんだ。
杏奈ちゃんの肩にそっと手を添えると、微笑んだまま杏奈ちゃんが目を閉じる。
ドキドキとうるさい心臓を叱り付けて、少しずつ顔を近づけていく。唇が、近づいていく。
杏奈ちゃんがさっき読んだ続きを思い浮かべながら、私はその距離を、ゼロにした。
『われら接唇(くちづけ)する時に 月は頭上にあるでしょう。』
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