【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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60: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/21(日) 00:10:07.73 ID:9pse+9K10
 人は慣れていく。
 なりたかったはずのものになれなかったことに。
 なりたかったはずものになれなかったアイツが、もうそばにはいないことに。
 慣れなくては前に進めない。けれど、慣れたとき、確実に何かが終わる。
 終わったらもう戻れない。

「……いまだに、飲み込めてないっス」

 俺が運転する車の助手席で、荒木比奈はフロントガラスを硬い表情で眺めながらつぶやいた。

「もう一回説明するか? ティーン向けのファッション雑誌で、モデルの仕事だ。指定の衣装で撮影。先方もこちらがファッションモデルではないことは判ってるから、気張らなくても」

「そうじゃないっス、日陰者のアタシが、モデルってのがまだ……ってプロデューサー、わかってアタシのことからかってるっスね!?」

 比奈はこちらを睨みつけた。

「まぁまぁ、大丈夫ですよ! 私も前にちょっとだけ写真のお仕事しましたけど、とっても楽しかったですよ! 自分で思っているよりもずっと綺麗に撮ってもらえますし!」

 後部座席右側に座る上条春菜が比奈をなだめる。

「今日はすっごく楽しみにしてたんです! なにせ、今日のお仕事はみんな!」春菜はそこですこしためを作る。「っ眼鏡ですから!」

「……なるほど」研ぎ澄まされた声が車内の緊張感を高める。「今日のメンバーは、そういう趣向で選ばれたの?」

 言いながら狭い車内で足を組み替えたのは、美城プロダクションのアイドルの一人、八神マキノだった。
 後部座席の左側、春菜のとなりに座っている。
 マキノは右手の人差し指をこめかみのあたりに当てて、真剣な眼でバックミラーごしにこちらを見ていた。

「……いや、たまたまだ」

「そう」

 マキノは短く返事すると、そのまま窓の外へ視線を向けた。

「アタシの宣材写真、そもそも眼鏡かけてないですし……ところでアタシたち、ユニット外の活動もあるんスね」

 比奈の疑問に、俺はうなずく。

「ああ。むしろユニットは楽曲やイベントのコンセプトに合わせた一時的な組み合わせだと考えたほうがいいかもしれないな。いまの五人のユニットは、先輩……前のプロデューサーが企画した新曲に合わせて組まれたユニットだ。これから美城で活動していくとなると、ほかのアイドルとの絡みも増えていくはずだぞ」

「なるほど……とりあえず、今日はマキノさん、よろしくっス」

「ええ、よろしく」

 マキノは比奈に微笑みかける。
 さっきまで近寄りがたい雰囲気を放っていたが、こうして笑っているところをみると、大人びてはいるものの閉じているという印象はない。
 単純に緊張していただけなのかもしれないと俺は考えた。

「同じ眼鏡アイドルとして、今日ははりきっていきましょう!」

 まとめた春菜の一声で、これまでやや張り詰めていた車内の空気が緩んだ。
 ちなみに俺の視力は悪くないのだが、朝の集合時点で春菜から伊達眼鏡をかけることを強要されている。

「今日のカメラマンは業界ではそれなりに名が通っているから、プロダクションとしてもしっかり成果を出しておきたい仕事だ。とはいえ、さっき比奈に言った通り、今日のメンバーは、モデルが仕事の中心ではないことは先方に伝えている。リラックスして臨んでくれれば、それで十分だろう。スタイリストをはじめとした各スタッフもプロだ、言うとおりにしていれば大丈夫さ」

「そうは言っても、やっぱり緊張はするっス……」

 比奈はそういって深く溜息をついた。



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