【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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52: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:19:17.64 ID:gwN8ecrL0
「あ!」

 子どもが茜の後ろのほうを指さして、顔をぱっと輝かせる。

「ああ! いた! もう、探したんだから!」

 若い女性が駆け寄ってくる。この子どもの母親だろう。

「すいません、ご迷惑をおかけしました」

 女性はこちらに向かって深々と頭を下げた。

「いえいえ、お気になさらず」

「そうです、人助けはエスパーの務め! 当然のことをしたまでです!」

「お母さんが見つかって、よかったですね!」

 茜が子どもに微笑みかけると、子どもは嬉しそうに大きく頷いた。

「あら、そのお人形は……?」

 母親が子どもの持っている堀裕子のスプーン人形に気づく。

「もらったの」

「すいません、あの、お返しを……」

「いえいえ!」裕子は母親を手のひらで制する。「これは私、エスパーユッコとここにいる茜ちゃん、そしてこの子の三人のぱわーが宿ったさいきっく・わらしべ人形! もしもどこかに困っていたり、悩んでいる人がいたら、この人形を渡してあげてください! きっと、さいきっくぱわーでその人のお悩みを解決してくれるでしょう! いまもさっそくこの子の悩みを解決してくれました!」

 自信満々に言う裕子に、子どもの母親は思わず吹き出す。

「わかりました、それじゃあ……すいません、ありがたく頂戴します。ほら、お姉さんにありがとうって」

「ありがとう!」

 すっかり笑顔になった子どもは、裕子と茜にそう言って、母親とともにその場を去って行った。

「ありがとう、助かった。ハンカチ、私物だったんだろ?」

 俺が尋ねるが、裕子はさっき母親にしたのと同じように、俺に掌を向けて首を横に振る。

「気にしなくて大丈夫です! 今日はイベント、お疲れ様でした!」

「お疲れ様でした! ユッコちゃん、すごかったです! すごい人気でした!」

「あはは、あれはヒーローの人気ですから……でもいつか、あのくらいたくさんの人に囲まれて、ライブをしたいですね! ……それじゃ、着替えもありますし、私はこれで!」

 言って、裕子はその場から去っていった。
 茜はその後ろ姿をじっと見つめている。

 まさか、裕子が超能力で子どもの母親を呼び寄せたと信じるわけではない。ただの偶然だろう。
 しかし、裕子の並々ならぬ自分の能力に対する自信は、裕子というアイドルを輝かせて見せていた。

「……すごいです。ステージから降りても、あんな風に人を笑顔にして……ユッコちゃんも、正義のヒーローみたいでした……私も、もっともっと頑張ります! プロデューサー、もっとお仕事やらせてくださいっ! ボンバーッ!」

 茜は拳を天井に向かって突き上げ、気合を入れた。

「ああ。まだまだ下積みだが、着実にできることからだな。今日のイベントは事故もなく、無事に終了ってところだ。初仕事、お疲れ様」

 俺が言うと、茜は目を丸くして、それからほんの少し頬を染めた。

「お疲れ様でした!」

 言って、茜は勢いよく一礼した。
 俺は茜の姿をみながら考える。俺も一歩ずつだ。茜たち五人が進むのと同じように。

 復帰した先輩にこの五人を引き継ぐのがいつになるかはわからない。
 それまでは、できることを着実にやっていこう。ヒーローショーのシナリオと同じ、ありきたりでいい。
 ありふれた小さな仕事から順番に。きっとそれが最も正解に近い。

「よし、俺たちも撤収だ」

「はいっ!」

 俺たちは心地よい疲労を抱えて、西日が射しこむイベント会場を後にした。


第四話『せいぎのみかた』
・・・END



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