【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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24: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 23:11:55.04 ID:z+wGLY660
 比奈が戻ってくる。やがて、シャワールームからは水音が聞こえ始めた。

「さて――」比奈は机から眼鏡を取ると、それをかけて、俺の前に座った。「プロデューサー、訊きたいことがあるっス」

 比奈は真剣な表情だった。俺が黙っていると、比奈が続ける。

「プロデューサー、アタシや茜ちゃんをプロデュースするって話、どこまで本気なんスか?」

「……っ」

 俺は答えに窮した。比奈は眼鏡のレンズの奥から、こちらを試すように見ていた。
 シャワールームからは水音が鳴り続けている。

「アタシを誘ったときの言葉、ちょっとだけ迷いを感じたっス。アタシを誘いたいからここに来たはずなのに、プロデューサーの態度はどっちでもいいって感じだったっス。そんなんで、ちゃんとプロデュース、してくれるんスか? ……一応アタシ、マンガ描いてるくらいっスから、人間観察力は高いんスよ」

 比奈に問われて、俺は少し迷い――それからひとつ息をついて、観念して俺の立場を話すことにした。
 ここまで言われてしまって、即答で否定できなければ、もう嘘をついても通らないと思ったからだ。

 先輩から急に引き継いだプロデューサーという立場、茜との経緯、本当は仕事を適当にやって、実家に帰りたいという俺の意識。
 全てを聞いて、比奈は少し目を細めてふーん、と息を吐いた。

「なるほど、判ったっス」

「……どうする、やっぱり辞めるか?」

 俺が尋ねると、比奈は首を横に振った。

「まずはお試しってことで、アイドルやってみるっス。一度OKしたことをひっくり返したくはないですし、茜ちゃんにも悪いですし。自信はないっスけど。それに……マンガ褒めてもらって、嬉しかったですし」

 比奈はそう言って姿勢を崩した。
 足を投げ出して、後ろ手を床につき、天井のあたりを眺める。
 シャワールームの水音が止まった。

「いま聞いた話は茜ちゃんや、これから会うほかのアイドルのみなさんには秘密にしておくっス」

「助かる」

 俺がそう言うと、比奈は目を細める。

「アタシ、共犯者になっちゃいましたね。この先、アタシも実際にアイドルやってみて、ちゃんと続けられるかはわかんないっスけど……元のプロデューサーに引き継ぐとしても、それまでのあいだ、茜ちゃんたちをがっかりさせるようなことには、しちゃだめっスよ」

「ああ」

 返事をしながら、俺の心の奥がうずいた。記憶の底のアイツが蘇る。
 ――アイドルになりきれなくて、がっかりしていた、アイツが。

「ま、そんなに心配はしてないんスけどね」

 比奈にそう言われて、俺は首を傾げた。
 シャワールームの扉が開く音がする。

「プロデューサーはたぶん、そこまで無責任にも悪人にもなれないヒトっスから。ヒミツ、ちゃんと守り通すタイプのヒトっスよ」

 比奈はそう言って、いたずらっぽく笑った。



第二話『ヒミツの花園』
・・・END




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