【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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19: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 23:01:02.24 ID:z+wGLY660
ひとまず、観念して作業を開始することにした。
もし予定通りの助っ人が来れば、その時に事情を説明して交代すればいい。
俺は上司に、出先から直帰になる旨をメールで送信する。
それから作業指示に沿って、原稿をはじめようとし――
「ああっ!」
茜の大きな声がして、俺と比奈はそちらを見た。
茜は困ったような顔で比奈を見る。
「すこしはみ出してしまいました! ……どうしましょう」
「ああ、大丈夫っス、ちょっとならホワイトで修正すれ……ば……」
比奈は茜の手元の原稿を見ながら言いかけ、絶句した。
俺も茜の原稿を見る。……“すこしはみ出した”程度ではなかった。
登場人物の髪型が全てアフロになっている。
俺は肝が冷えた。
おそるおそる比奈のほうを見る。比奈はじっと原稿を見ていた。
全員が三秒沈黙。恐ろしく長い三秒だった。
「茜ちゃん」比奈は少し低い声で言った。「やっぱり……茜ちゃんには買い出しを頼むっス」
比奈はそう言うと、机の横に雑多にまとめられていた紙束の一番上の一枚に、さらさらとメモをしていく。
「よし、これをお願いするっス、重要な任務っス!」
比奈から渡されたメモを茜は真剣な目で読み、それから立ち上がる。
「了解しましたっ!」
茜は鼻息荒くそう言って部屋を出ていこうとするが、廊下へ出るドアの前でぴたりと止まり、こちらを振り返った。
「そういえばっ、私、お金を持っていませんっ! どうしましょう!」
「あー……」比奈は後ろ頭を掻く。「そういえば、アタシもたぶん、いまは財布カラッポっス……」
そして、比奈と茜は俺のほうを見た。
「……」
俺は観念して財布から五千円札を取り出すと、茜に渡した。
「行ってきまあっす! 全力ダーッシュ!」
茜は勢いよく部屋から飛び出していった。ドアの閉まる音がする。
「いやー面目ない。必ず後で返すっス」
比奈はそう言いながら、茜がベタ作業をしかけた原稿を紙束の中に押し込んだ。
それからは黙々と作業が続いた。
比奈は原稿に指示を入れて俺に渡し、俺はその指示に従って効果をつけていく。
俺の作業が終わったら、比奈が最終調整をする。
単純な作業の繰り返しだが、最近は頭を悩ませるようなことばかりだったので、それに比べれば気楽なものだった。
茜は息を弾ませて買い物から帰ってきたが、ちょうどその時に外から夕方五時を知らせるメロディが鳴った。
俺は茜を家に帰すことにし、比奈もそれを了承した。
部屋の中に比奈と二人になり、作業を続けさらに数時間。
すっかり日が暮れたころになっても、比奈が呼んだはずの助っ人は来なかった。
俺は比奈に助っ人について尋ねようかと思ったが、それでは比奈と二人きりで作業をしている俺はいったい何者なのか、ということになってしまう。
結局、俺は言いだせずに作業をつづけた。
その後、深夜になり、日付が変わっても助っ人は現れなかった。
俺はそのころようやく、もう助っ人は来ないものと諦めることにした。
未完成の原稿はあと八ページ。俺は二本目の、比奈は三本目のエナジードリンクを呑み干した。
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