【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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17: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 22:56:52.62 ID:z+wGLY660
部屋に入る。確かにちらかっていた。
だが不潔というほどではない。嫌な臭いなどは漂ってこない。
机の上にはデスクトップパソコンと液晶ペンタブレット、それと大量の紙類。
ざっと見たところ、マンガの原稿のプリントアウトのようだ。
壁沿いに配置されているソファーにはタオルケットが畳まれている。
部屋の一角のキッチンにはコンビニエンスストアの弁当の残骸が見え隠れするゴミ袋と、缶コーヒーや栄養ドリンクが多数。
カーディガンが椅子に掛けられているが、それ以外に衣服や洗濯物などが散乱している様子はない。
ざっと見渡して、男の俺が視線を向けて失礼に当たる場所はなさそうだ。
「プロデューサー! これ、なんの道具ですか?」
茜が液晶ペンタブレットやマンガ原稿を見て目を輝かせている。
俺はこの状況を分析した。おそらく、比奈は俺たちを誰か別の来客予定者と勘違いしている。
さっき比奈は、茜の“すかうと”という声に対して“すけっと”と返事をしていた。
きっと締切直前の修羅場で、マンガ制作を手伝う助っ人を呼んでいたのだろう。
となれば、いまの俺たちは招かれざる客。呑気にスカウトの話などしていい場面ではない。
これは交渉不成立ということで退散すべき場面だろう。
「ええと、荒木さん、私たちは」
「いやー突然の助っ人、OKしてもらえてほんっとーに助かったっス! 今回ばかりはさすがに間に合わないと思ったっス。感謝の言葉もない……さっそく、作業の説明をしていいっスか!」
話を遮られて俺は口ごもる。比奈の目は全然笑っていない。
時間がないことをアピールするオーラが体の周りに見えるかのようだった。
とても自分たちが助っ人ではないことを言いだせる雰囲気ではない。怖い。
「表紙はできてるっス。現状はペン入れの終わった原稿が八ページ、ネームまでの原稿が十ページ。入稿は明日の十時っス」
言われて、俺は時間を逆算する。今が午後四時前。素人目に見ても到底無理ではないか、という予測が頭をよぎったときだった。
「……その目!」比奈は俺の両肩をがしっと掴んだ。「無理だと思ってるっスね!? 大丈夫っス! 絶対間に合わせてみせるっス!」
比奈のすさまじい剣幕に、俺はつばを呑んだ。
比奈は俺の肩から手を離し、液晶モニターの前に座る。
画面の反射でぶ厚いレンズの眼鏡がギラリと光った。
「ふ、ふふふ……やってみせるっス……ジェバンニは一人で一晩……こっちは三人もいるっス、楽勝に決まってるっス……ふふ……」
意味の分からないことを呟きながら、比奈は怪しく笑う。
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