55: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/04/20(木) 01:28:51.89 ID:RzQS9TXiO
「……まだ拭ききれてない、君も濡れてしまうよ?」
司令官の体温は、とても低いものでした。
濡れた肌は一層冷やされていて…それはこの前亡くなった仲間の遺体の冷たさに、よく似ていて。
「司令官…青葉は、ずっとそばにいますから。」
「ありがとう。…大丈夫だ、僕はいなくならない。」
“うそつき。”
そう言いかけたのを、青葉は飲み込んでいました。
彼の垂れた左手にはいつもの腕時計と、隠された傷跡。
これだって、きっとその事が関わっているんだ。
時計からはみ出た手首の傷は、閉じた目尻のように見えました。
この時青葉には、それが彼の、閉ざされた心の目に見えたのかもしれません。
こじ開けてしまいたい。
それで彼が泣く事が出来るなら、何もかも暴いてしまいたい。
例えそれが、パンドラの箱だったとしても。
バケツに滴る雨漏りの音は、外とは真逆のリズムを刻んでいて。
この時青葉の中に、同じリズムで滴ったものがありました。
それはきっと…色の付いた滴だったのだと思います。
ほんの少し水を濁らせる、真っ黒な滴が。
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