456: ◆FlW2v5zETA[saga]
2018/05/09(水) 09:28:54.15 ID:jUsAX/Du0
深くは訊きませんでしたが…彼の学生時代の仲間は、きっとその軽音の人達だったのでしょう。
夕陽に照らされたギターには、薄っすらと擦り傷が浮かんで。
その一つ一つが、彼の思い出の跡。
感情を失ってしまった時期に、私物をかなり処分してしまったそうです。
それでも手放ず、大切に保管されていた。
ギターに向けた、思い出をなぞるような眼差しに、何だか胸がギュッとなりました。
「…さすがに当時ほどは無理だけど、意外と覚えてるもんだ。
弦替えて弾いてたら、すっかり夢中になってたよ。」
「何か弾いてよ。」
「いいけど下手だぞ?」
「いいの。」
ぽろぽろと部屋に響くのは、優しくて、少し切ないギターの音。
その間は長く思えたけど…それは退屈じゃなくて、穏やかな時間に思えたからでした。
「……すごいじゃん。」
「ふふ、ありがとう。」
照れ臭そうな笑顔は、ちょっと誇らしげでもあつて。
そんな感情豊かな瞳に、また愛おしさを覚えたものです。
「いい夕暮れだな。」
「……うん。」
「…お前とこんな何でもない時間を過ごせるのが、本当に嬉しい。
それがずっと続くのが、今の俺の夢かな。」
「ふふ、ずっと続くよ。離してあげないから!」
ずっと続いて行く、穏やかな日常。
この時私は、心の底からそれを信じていたものでした。
ずっとずっと、続くんだって。
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