422: ◆FlW2v5zETA[saga]
2018/03/20(火) 00:17:50.50 ID:EjyKetk5O
「…青葉ちゃん、どこまでも邪魔をするのね。」
「やらせませんよ……その人は、私の大切な人ですから。」
戦場で何度も嗅いだ、血肉の焦げる匂い。
それは叔父さんの時にも感じた、その実誰を撃っても変わらない匂い。
この手が命を奪う時、必ず立ち込めるもの。
いつしか重く記憶の嗅覚に染み付いた、残忍な私の証明。
それが今、あの人からも放たれている。
だけど…もうこの手が震える事は無い。
「扶桑さん、一つ取材をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「くす……何かしら?」
「そうですねぇ……どうしてあなたがそうなって、何故こんな事をしでかしたのかと。
あなたの最期のインタビューとして、お尋ねしたいと思いまして。」
「ふふ……いいわ。もっとも、それがあなたの最期の記事になるけれど。
ひどい事をするのね、この子をあんな風に壁に叩き付けて…。おいで、痛かったわね。」
「キキ!」
分裂体は無邪気な様子で、扶桑さんの胸へと飛び込んでいました。
彼女も赤子程度の大きさのそれを、まるで本当の子供のように慈しんで…。
「そうね…人工授精ってあるじゃない。行為が無くとも生まれる子供…。
あれは卵子と精子だけれど…血と血が混じって生まれたものなら、それはもう二人の命の結晶なのよ。
ジュン……この子はあなたと私の子よ。」
その時見えた扶桑さんの目には…きっともう、何も映ってはいなかったのでしょう。
白い瞳そのままの、白濁した妄執だけを映して。
彼女はただ、幸せそうに告げたのでした。
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