322: ◆FlW2v5zETA[saga]
2018/01/17(水) 23:15:14.57 ID:CAYfeAj6O
青葉と別れた後。
扶桑は寮ではなく、とある場所へと向かっていた。
そこは同じ街にある、彼女と山城の実家だ。
親族は海外におり、管理の関係上週に一、二度はどちらかがここへ泊まりに来ていた。
この日青葉と出掛ける前、彼女はいつものように外泊許可を申請していた。
だがそれは、ただ実家に訪れる為だけではなく。
妹に今夜の自分を、見せたくないが故の事。
この家には、彼との思い出も多くある。
今自室で彼女が横たわるベッドも、また同じだ。
任務続きで疲れていた彼を気遣い、共に昼寝をした事もあれば。
いつか妹が修学旅行に行っていた間、ここで体を重ねた日もあった。
過ぎた幸福が、慣れたマットレスに横たわると津波のように押し寄せてくる。
それを嫌い、彼女は普段ここに泊まる時、和室に布団を出して眠っていた。
“青葉ちゃん、前より可愛くなってたわね…。”
脳裏をよぎるのは、先程まで一緒にいた、彼の現在の恋人。
きっと彼の為に頑張っているのだと、その姿を見た時扶桑は感じていた。
少し古いマットレスは、当時より彼女の体に合わせ深く沈む。
それはまるで、別の物に沈むような感覚を彼女に与え。
「………腐った気持ちに沈むのなんて、私だけで充分なのよ。」
そう呟いた後。
彼女は独り、泣いた。
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