198: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/09/27(水) 08:24:49.41 ID:NsTJuwti0
「ありがとう」と言う彼の顔には、貼り付けたような笑み。
歓喜で震えていたはずの手は、今は焦燥と、現実への拒絶感で震えていた。
この人は、誰……?
最初は、気のせいだと思い込もうとした。
だけど言葉を交わすたび、上の空な心が見える。
ねぇ、何処へ行ったの?
だって、これじゃまるで……死人みたいじゃない。
面会時間は、まだ長くは取れなかった。
受け入れきれない、頭の処理が追い付かない…家に帰ってベッドに倒れ込んだ私は、逃げるようにすぐに意識を手放した。
その眠りの中、夢を見た。
それはつい最近まで日常だったはずの、楽しい休日で。ただの思い出の追体験で。
でも夜目を覚ました時、私の周りにあったのは、真っ暗な部屋だった。
水を飲もうと廊下へ出た。
お姉ちゃんの部屋は、私の隣。そこはスライドドアになっている。
お姉ちゃんには珍しく、ドアに少し隙間が空いていて。
そこから漏れるのは部屋の明かりと……お姉ちゃんのすすり泣く声だった。
水の味は生々しくて、頬をつねってみても、やっぱり痛くて。
こっちの方が、夢なら良かったのに。
そんな事は、無かったけど。
退院してしばらくは、彼には休暇が与えられた。まだ静養と通院の必要自体はあったからだ。
お姉ちゃんは、よく行った公園に彼を連れて行っていた。
私は行かなかったのかって?そうね…ふたりきりにさせてあげたかったし、何より、現実に向き合うのが怖くなってしまっていたの。
それから3日もしないで、彼は自殺未遂を起こして再入院した。
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