157: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/06/18(日) 07:03:20.81 ID:E5Fo7Ca+O
その日の夜。
一日を終え、彼は自室のベッドに横たわっていた。
部屋には音楽が流れており、間接照明の中、彼はじっと天井を見つめている。
ベッドから感じるのは、彼女の残り香。
記憶の中のぬくもりを思い出しながら、しかし彼の手には、それとは相反するものが握られていた。
マガジンの抜かれた、冷え切った拳銃が一つ。
スピーカーから流れるのは、彼女に貸したものと同じアルバム。
それは戦死した兵士の魂が、現代へとタイムスリップすると言うストーリーの作品だった。
彼女の前ではこの頃見せていない、あの貼り付けたような微笑み。
それを浮かべつつ、彼は右手の銃を持ち上げ。
そして、かち、と言う虚しい音だけが彼の片耳に響いた。
「ふふ……ははははははは!!!」
まるで楽しんでいるかのような、激しい笑い声が部屋に響く。
実際に、彼はコントを見ているような気分だったのだろう。
自身の存在と言う、ブラックコメディ。
今彼にとって最も滑稽なものは、それ以上に存在し得ないのだから。
“あの子の前で殺された……ね。”
流れる音楽の歌詞と、ある想像が彼の中でリンクする。
そして彼が彼自身に突き付ける銃口は、自身の心の弱さだった。
「俺は、蘇ったりはできないな……。」
彼女からもらった、葉のペンダント。
それを握り締める手は、ひどく震えている。
直後、携帯のバイブレーションが響き、それは彼女からのものだった。
何とも他愛の無い、恋人らしい内容だ。目を通せば、先程までの感覚はひと時でも安らぐ。
それは偽薬のような、か細い安息。
だがその実、幸福以外に、心の奥底にあるものを隠したままだった。
形は違えど、互いが共通して隠すもの。
それは、不安と言う名の感情だった。
557Res/457.29 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20