148: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/06/01(木) 06:03:38.34 ID:SzsIr5nJ0
「俺はあの日以来、感情を失っていた。今でも完全にとは言えない。
今でも軍にいるのは、もう一度死線に巡り合う為でしかなかった……いや、正確にはそれ以外は感じられなかったんだ。
ここにいれば、いつかあの場所が見えるんじゃないかってね。
この歳で少佐に上がったのも、感情が無かったからだろうな。
感情が無いから、戦術での最適解を出す事が出来た…味方の反発を産まず、敵もなるべく殺せる道を。
だが、失ったものは多かった。
俺は仲間の死も嘆けなければ、彼女と別れてもやはり空虚だった…ひどい事ばかりしてきたよ。
司令官になった今でも、艦娘や他の職員との距離は感じていてね。そんな中に現れたのが、君だ。」
「……はい。」
「随分と、俺を引っ張り出してくれたもんだよ…ちゃんと人として話を出来たのは、君ぐらいなものさ。
おかげで、今はこの戦争を終わらせたいと、はっきり思えるようになった。
俺には言えない事も沢山ある。これから先、君にはつらい思いをさせるかもしれない。
__。それでも、近くにいてくれるか?」
「……はい!いつでもそばにいますから!」
「ありがとう…俺も、君の事が好きだ。」
そうやって抱き締められた時、全てが昇華された気がしました。
彼の苦しみも、青葉の苦しみも、何もかもが。
抱き合っている間は、融け合えているみたいで。それはとても、幸せな事。
目に見える全てが、優しい場所と思い込めるぐらいには。
例えばそこが、実際は海の底だったとしても。
いくらでも、どこまでも深入りできてしまう気がして。
青葉と司令官が。
いえ…『私』と『彼』が一線を超えたのは、その夜の事でした。
それは全てに目を伏せるような。
虫の声も聞こえない、丸い月の夜だったのです。
手を伸ばしても届かない、光の遠い夜の事。
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