青葉「けしの花びら、さえずるひばり。」
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128: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/05/18(木) 03:03:29.36 ID:3OWGQWfYO
部屋に戻った彼は、ベッドへと倒れ込んだ。
時計も外し、上着も脱ぎ。何となく照明へと手を伸ばしている。

彼の視界に映るのは、ぼやけて見える強い照明と、相反して生々しく映る自身の左手。
ズタズタの手首は明かりに晒され、その傷の深さをより浮き彫りにする。

手は、微かに震えていた。

「うっ…………!?」

そんな中、突如強烈な嘔吐感が彼を襲い、彼はトイレへと駆け込んだ。
吐けるものを全て吐き、口をゆすいでようやく平静を取り戻す。
彼が正面を向くと、目を鋭くした男が一人、洗面台の鏡の中に立っていた。

肌蹴たTシャツから覗く肩には、噛み跡が一つ。
その痛みと共に、蘇るもの。

甘い声。
体温と匂い。
向けられた心。

それらが否応無しに、彼の奥底に貼り付くものを、少しだけ引き剥がす。

洗面台の横、コンクリートの壁。そこから鈍い音がしたのは、直後の事だ。
拳から垂れる血が、足元の白いマットを赤く汚す。
掌を伝う温度が、命の赤が、生命の存在を耳をこじ開けるように囁く。

ここでは誰も見たことの無い、彼の苦痛に歪む顔。
今それは、たった一枚の鏡の中でのみ、白日のもとに晒されていた。

「……ふふ…。」

だがそれも、長くは続かなかった。
それはすぐに、侮蔑の笑みへと変わったが故に。

「………てめえは死んだんだろ?今更出てくんじゃねえよ。」

男は一人笑いながら、鏡の奥へと声を掛ける
その目には、一筋の涙が伝っていた。

彼の感情さえ無視した、身勝手に溢れる涙が。




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