永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」
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446:名無しNIPPER[saga]
2017/12/04(月) 00:03:16.56 ID:u3ex58150


薬売り「…………」

てゐ「なによ、なにをボケっと呆けてんのよ」

薬売り「いえいえ、とんでもない……ただ」

薬売り「貴方様の語る過去が……”あっしが知っている話”と、よく似ておりましたので」


 薬売りが緩んだ表情になるその気持ち、身共もよく推し量れようぞ。
 遠く出雲の地に御座す、かの高名な社。
 そこに奉られる一羽の御神体が……よもや目の前におるなどと、一体誰が予想できたであろうか。


てゐ「あ……もしかして、眠くなっちゃった?」

薬売り「めっそうもない……逆ですよ」

薬売り「むしろ眠気など、とおの彼方に吹き飛びました……貴方様の話を、より深く聞きたいが為に」


 全く……薬売りとここまで意見が合う日が来るとはな。
 かく言う身共も今、腰が抜けそうな程仰天しておるわけだが……
 と言うのもだな。まっこと、恐ろしいまでの偶然なのだが、実は……
 この妖兎は、身共にとっても縁深き兎でな。


てゐ「なによ……急に乗り気になっちゃって」


 かつて若かりし頃、修験の修行に明け暮れておった頃の話だ。
 今となってはお恥ずかしい話なのだが……修行のあまりの厳しさに耐え兼ね、幾度か脱走を試みた事があってな。
 皆が寝静まる夜分深くに、こっそり山を抜け出してな……
 我ながら、よくぞあの真っ暗闇の山の中を、一人で降りようとしたものよ。


てゐ「人の失敗談が、そんなに楽しい?」


 夜の山が如何に危険であるかなど、今時童ですら知っている。
 しかしながら、当時の身共には、僅かながら一つの「勝算」があったのだ。

 と言うのもだな。修行場である霊山の頂からは――――視界一面に広がる”海”が見えたのだ。
 そして当時の身共は思った。
 あの一面の大海原から漂う、潮の香を辿れば、「迷うことなく山を下りれるのではないか」と。
 

てゐ「言われなくとも言ってやるわよ……そうしないと、この剣は抜けないんでしょ」


 しかし所詮は若造の浅知恵。
 そんなものが早々上手くいくはずもなく、結局は失敗に終わったのは、今や笑い話である。
 だがもしも、仮に、あの時の逃走が成功していたならば……
 身共は辿り着いていたはずなのだ。


てゐ「それにもうじき……”夜が明ける”」


薬売り「それも……そうですな」



 脱走の標と定めていた、霊山の目と鼻の先――――兎神の社である。


https://i.imgur.com/gXMaR1V.jpg




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