永琳「あなただれ?」薬売り「ただの……薬売りですよ」
1- 20
260:名無しNIPPER[saga]
2017/05/13(土) 23:55:50.34 ID:c7/SmhYwo


(………………静か)



 月の表側は、それはそれは静かでした。
 レイセンにとっては初めての経験です。
 レイセンの耳を以てしても、何も聞こえない”真の静寂”が、そこにはあったのですから。



(何にも…………聞こえなぁ〜い…………)



 静寂は、全ての音をかき消しました。
 今頃必死になって探しているであろう追っ手の声。
 自分の噂話をしているであろう月人の声
 心配しているであろう飼い主の声。
 部屋の中で聞こえた、穢れ人の声。
 そして――――”自分自身の声”すらも。



(………………まぁ)



 月の表側は、もう一つ、とある法則がありました。
 それは「全てが軽くなる」事です。
 足元の小石を少し蹴とばしただけで、石はまるで、土煙のようにどこまでも漂っていきます。

 ふわふわと心地よさそうに浮いていく小石を見て、レイセンはふと思いました。
 この場所で、この何もかもが浮つく静寂の場所で――――
 もしも、自分の脚で、”思う存分跳んだなら”。



(気持ち…………よさそ〜…………)



 レイセンは、何も考えていませんでした。
 本当に、何も考えていませんでした。
 考える声も、月で過ごしたたくさんの思い出も、自分が最も恐れた顏さえも。
 脳裏によぎる全てが、目の前の単純な好奇心に上塗りされていきます。




(何やってんだ―――― や め ろ ! )




 何も聞こえませんでした。
 何も見えませんでした。
 だから跳びました。
 だから跳べました。




 それが――――穢れた地への落とし穴だとも、気付かずに。



www.dotup.org




【子】



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
808Res/717.96 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice