【ダンガンロンパ】辺古山「猫のいる生活」
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60: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/14(火) 10:46:00.43 ID:PdWpZk630


「……」

  俺の1日は陽が登ろうかという時間からはじまる。これは監獄にいたことにより身についた習慣だ。
 しかし、体を起こそうと腹筋に力を入れたが、その腹筋に力が入らない。少し浮いたとしても、すぐに後ろに引かれたように背中がベッドへと戻っていく。

「?」

 体を起こすだけの簡単な動作。しかし、2、3度同じことを繰り返してみるが──

「にゃー (動かねぇ」

「!?」

(今の……にゃーって声は、なんだ……?)

(いやいや……さすがに聞き間違いだろう……?)

 イヤな予感に焦りが生まれる。いやいや、まさか、俺が“にゃー”なんてそんな猫のモノマネ紛いなこと……。自分の馬鹿げた思考に自嘲してから、もういちど言葉を発してみた。

「にゃー (あー」

 間違いなく、俺から発された声だった。

(冗談だろ?! どうなってやがる!?)

 上体を起こせないならと、体を横に向けて起きあがる。起き上がることができ安堵したが、まだ確認しなくちゃならない。気を引き締め、次に立ちあがろうと脚に力を入れた。バランスを崩しつつも、なんとか立ち上がれた。しかし、立っていられたのも数秒間だけで、すぐに上体が前に傾く。

(立てねーことはねぇけど……やっぱり不安定だな)

そして次に、不安と疑念を取り除くために、視線を手へ落とす。

(はっ……)

 乾いた笑いが込み上がる。そこにあったのは、人間らしさの欠片もない、毛むくじゃらで肉球のついた、可愛い前足だった。

(まったく……笑えねぇなぁ)

(アンジーじゃねーが、こいつは神様からの“人間をやめろ”っつーお告げかも知れねーな)

 非現実的な状況にありながら、どこかそれを受けとめて諦めている自分がいる。悪足掻きしなけりゃならない理由が、俺にはないからだ。冷たい地獄のような監獄の中で、いずれくる処刑される日を待つだけの囚人。それが俺だ。
 マフィアを潰すために、殺してまわり、俺の人生も一緒に添えて、恋人への手向にした。生きていたって、お天道様の下を堂々と歩けないような、もう社会的には死んでいるも同然の人間。世間様だって、もうすでに俺は処刑されて、死んでいると思っているヤツも、いくらかいるだろう。だったら逆にこの先、猫として生きてみるのも悪くないのかもしれないと、らしくなく考えた。


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