57:名無しNIPPER[saga]
2025/01/13(月) 16:27:28.02 ID:srIrBjX40
辺古山 「これまでは危機感を抱くほどの相手がいなかった。だがこの先、強敵と対峙することになった場合、垂れ流しになっている私の殺気で、居場所を把握され、形成が不利になってしまいかねない」
辺古山 「最近は殺意を抑える訓練もしたほうがよいだろうか、と考えているのだが……どう思う?」
そう語るのは辺古山 ペコという、一風変わった可愛い響きのする名前の女。しかし、名前の響きに反して、辺古山から発せられる気配は、研ぎ澄まされた業物のように鋭い。
その眼光で一度睨めつければ、刃物を喉元スレスレにまで突きつけられているような気分を味わうことだろう。
「理由はそれだけか?」
辺古山が語るソレが、表向きの理由だということを解っている俺は、薄く笑いながら隠している“本心”を意地悪く聞き出そうとする。
辺古山 「け、決して動物に触れたいという不純な動機ではないぞ……!?」
語るに落ちるとはいったモンだ。焦って“本心”がまろびでている。俺が笑うと、辺古山は“しまった”という顔をすると、諦めたように俯いて肩を竦めた。
「ふっ、あんたが動物好きなのは、こっちは承知なんだ。焦って隠すこともないだろ」
辺古山 「うっ……確かにそうだが……」
どれだけの強者でも、機械でもなければ、どこかで人間らしい表情をこぼす瞬間はある。こうして好きなものを意識している内は、辺古山だって全身に武装している殺気や、固い表情が柔和になる。
普段からこうだったら、動物に逃げられることもねぇだろうに。
「だがそうだな……必要もないときに殺気を垂れ流したままというのは良くねぇかもな」
辺古山 「やはりそう思うか? 今までは護るべきお方のために、剣技を磨くことにだけ集中していたが故、気配を殺すことは考えてこなかった」
辺古山 「まさか必要に思う日がくるとも思わなかったが……」
憂うように目を伏せて、辺古山は嘆息する。動物に触れないことを、よほど思い悩んでいるようだ。確かに、こちらは好意があるのに、相手から幾度も怯えられたりしたら、さすがにメンタルを削られちまうか。
「まあ、気配を消す問題が解消できれば、いつかは触らせてくれるヤツが現れるだろうよ」
辺古山 「ああ。いつかこの手にもふもふを……」
苦い表情で歯の隙間から感情の籠った言葉をこぼしながら、血が滲むんじゃねぇかというくらいの力をいれて拳を握る。これじゃあ、猫が逃げちまうのも仕方がない。
俺なんかと違って、辺古山は生きていればまだ先がある。未来がある。俺に何ができるワケではないが、辺古山の願いが成就するよう、応援くらいはしてやろうじゃねぇか。
そう、思っていた。
しかしまさか、この辺古山の願いを、俺自身が叶えてやることになるとは、この時はどうしたって想像もつかなかった。
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