21: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2017/04/11(火) 13:08:32.35 ID:YNtF4pbK0
「…………」
嘘つきのこいつだが“嘘じゃないよ”と言ったときは、本当に嘘じゃなく本気なんだということは解っている。情けをかけるなんてことを、こいつでもするのか。
王馬 「用が終わったらこの部屋の前にでも居てよ。さよなら言わずに出ていかれるのは寂しいからさ」
獄原 「王馬君…」
ああ、こっちは嘘だな。
『嘘なんだろ』
獄原 「え? 嘘?」
王馬 「にししっ! 嘘だけどね!」
獄原 「えええええっ?!」
『こいつが殊勝なこと言うはずがないだろ…』
王馬 「さっすが星ちゃん! オレの良き理解者だよね!」
扉は開いた。なら、こいつにこれ以上付き合ってやる必要はねぇな。
『獄原、いろいろと済まなかったな。オレのことで真剣になってくれたこと、礼を言う』
『ありがとう』
俺の言葉をきいた獄原は、複雑な顔をして目を伏せていたが、寂しさを隠し切れていない笑顔をオレに向ける。
獄原 「後でここに戻ってきてね? 王馬君も言っていたけど、さようならを言ってからお別れしたいな」
『解った。一度戻ってくる』
『王馬』
獄原 「あ、王馬君」
王馬 「え? なに?」
『獄原の説得に関しては礼を言う』
獄原 「僕を説得してくれたこと、ありがとうだって」
王馬 「ふーん?」
『獄原…もっと正確に伝えてくれ』
獄原 「あれ? ゴン太間違ってる?」
王馬 「え? 間違えてんのゴン太」
獄原 「ま、間違えてないよ?! あれ? 間違えてるのかな???」
王馬 「あーあー、まったくゴン太は使えないよねー。猫の通訳もまともにできないのー?」
また意味があるのかないのか解らないやりとりをはじめちまいそうなふたりを置いて部屋を出た。付き合って眺めているつもりはない。
(この時間に向かうなら剣道場か)
目眩がしそうなほど広大な敷地を駆け出す。不思議と開放感に胸が高揚する。人生を捨ててから動くことがなかった、心が動いている感覚を思い出す。
(俺は…間違いなく生きてるんだな…)
忘れていたモノを全身に感じながら、目的地の剣道場を目指した。
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