メイド「私の嫌いな貴方様」
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131: ◆TEm9zd/GaE[sage saga]
2019/03/09(土) 20:04:41.82 ID:XWj0qJN60

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昨日から続いた雨はまだ上がりません。

重くのしかかるような雲は、まるで世界に蓋をしているようで、息が詰まってしまいそうになります。


こんな話があるのをご存じでしょうか。

その話をしてくれたのは、私の叔母。
酔ったあの人はよく与太話をしてくれました。
まるで天に蓋をするような曇天を見て思い出したこの話もその一つ。


複数のロブスターを生きたまま蒸し焼きにするとき、オスの場合は蓋の上にさらに重りをのせるそうです。
それは、なんとただ蓋を乗せただけでは出てきてしまうから。
オスのロブスターは個よりも種を尊重するため、自分の身を踏み台にして犠牲にしてでも、仲間が助かる方を選ぶそうです。


じゃあメスは?

私はその話を聞いたとき、そう思いました。


そのことを叔母に伝えたところ、ひひひっと薄気味悪い笑い声をあげて言いました。


メスのロブスターは互いの足を引っ張りあう。
自分が助からないなら他のやつらも助からないように邪魔をする。
結果全員蒸し殺しさね。

語り終え、なおもひひひっと薄気味悪く笑う叔母。


その話を聞いて私は恐ろしくなってしまいました。

叔母の語る姿におぞましいものを感じたからというのもありますが、それだけではありません。
ですが、当時の私はその恐ろしさを言葉にできませんでした。なんと言っていいか分からなかったんです。
ただただおぞましく、悲しくもなったんです。
だから泣くことしかできなくて……。


今なら、その恐ろしさの正体が分かる気がします。

そのロブスター同士は仲が良かったのではないかと、思ったんです。
なんでかは分かりません。
でもそのロブスターたちはきっと互いのことを思いあってたと、そう思ったんです。

大切だと思った。だからこそその人と離れてしまわないように押さえつけたんです。
執着、と言うのでしょうか。
自分の近くに置いておきたかったんじゃないでしょうか。
その場にいてはいづれ死んでしまうとしても。
死ぬ間際まで逃げないように二人は互いに邪魔をして、最後の時まで一緒にいたんです。

他人のものになるくらいなら、手の届かないどこかにいってしまうくらいなら、いっそのこと殺してしまおう。一緒に死んでしまおう。
そんな思いがあったんじゃないかって思うんです。



もう一度、空を見ました。
やっぱりそこには重々しい雲の蓋が。


ふと、思いました。
大切な人と最後の瞬間までいられたのなら、それはとても素敵なことなのではないかと。

ついでこうも思いました。
オスのロブスターみたいに他の全てを蹴落として蓋の上に出たところで、一人で見る空は物悲しいだけなのではないかと。



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