【ペルソナ5】9股かけたけどやっぱりたった一人を決めていく・後編【安価SS】
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361: ◆86inwKqtElvs[saga]
2017/02/19(日) 19:34:38.75 ID:IK4G7aOF0

「……春」
「久しぶりだね、双葉ちゃん」
 怪盗団が崩壊してから直接会うのはこれが初めてだ。
 春からは何のつもりなのか、お金だけ毎月のように振り込まれていることは知っている。ただ、手を付けていない。
 でもこのままでは、仕事をできない自分は、いずれそのお金に手を付けないといけなくなるだろうとは思っていた。
 今日はそれについての話し合いと聞いている。
「双葉ちゃんは詳しい話を聞いてないんだよね?」
 聞く余裕がなかった。
 今でも心臓がバクバクと、胸が苦しいのに。
 あいつと結婚したと聞いた。
 その後押しをしたのは、あいつに無理矢理選ばせたのは、私だ。
「ここからの説明は私がさせていただきます」
 検事から弁護士へと転身した冴が、ビジネスライクに話し始めた。
「簡単に言うと、個人事業……会社を設立してみないかということです」
「?」
「双葉のプログラミングの腕はそのままにしておくのは惜しいでしょ」
 真も感情を込めない、事務的な口調で話が進んでいく。
 要はセキュリティのソフト開発をしてみないかということらしい。
 真がいるのは、まず警察でそれを実験的に使用すれば、それ自体が宣伝になるからとのこと。
 セキュリティだけでなく、各国を経由して発信者を特定されないようなプログラムに対抗するソフトも開発してほしいということ。
 警察官になるには自分は資格がないから、民間として事業を立ち上げて、警察がそれを依頼する形になるとのこと――
「そんなことができるのか? お役所仕事だろ、警察って」
 モナが代わりに私の訊きたいことを訊いてくれた。
「私が押し通すから」
 真は変わらないなと思わず苦笑した。
「じゃあ春は、私のスポンサーになるのか?」
「そういうこと。やっぱり双葉ちゃんは頭いいね」
 仲間だった頃と変わらないように見える、優しい微笑み。
 けど、本当の春の微笑みを知っている私は、違うとわかる。
 相手を騙すため、駆け引きのための、仮面の微笑みだ。
 こうなったのは、私のせいだ。
 私があの時、春が変わりつつあることを認めていたら。
 私は認められなかった。
 だから真実を捻じ曲げて、見たい部分しか見ようとしなかった。
 春は今、経営の世界で、オクムラフーズをさらに拡大させている。
 労働環境の改善や思い切った事業展開などで、経済界では一目置かれる存在になった。
 表向きは非常にクリーンで、父親のコネだけでは済まされない、本人の実力。
 だけど、少し深めに潜ってみると、そのイメージとは正反対の、限りなくブラックに近いグレーな駆け引きが行われていることがわかる。
 会社の拡大の裏で、どれだけの人間が春の裏切りで傷付いているのか。
「……春」
 私はハンカチを、春に返した。
「? これ、何?」
「……覚えて、無いのか?」
 本当に春は覚えてないようだった。
 ずっとこっちは大事にしていたものが、覚えられていない。
 頭がぐるぐると回りそうなほど、強い怒りを感じた。
「…………」
 多分きっと。
 あの時のさよならの言葉は、かつて仲間だった頃の優しい春とも別れたんだ。
「そのハンカチは春が失くしたものだから、春に返すんだ」
 春はよくわかっていないようだった。
 とりあえず、といった様子で鞄にしまう。かまわない。意味は私だけ知っていればいい。
 事務的な話がその後も続いた。
「どうする、双葉?」
 モナは気遣ってくれる。
 けど答えは決まっていた。
「やる」
「……本当に?」
 真の方が驚いていた。
「それをしたら、助けられる人がいるんだろ?」
 詐欺や脅迫で真実を捻じ曲げるやつら。
 かつての自分みたいな、見たいものだけを見るやつ。
 最後に、モナにこっそりと、あいつはどうしているのか訊いた。
「ずっと、お前のことを気にしてる」
「…………」
 そっか。
 そうなのか。
「じゃあ、こう伝えてくれ。……もう、真実を捻じ曲げないって」
 私はまだ、理不尽さに怒りを感じることができる。
 なら、動ける。怪盗団が目覚めさせてくれた、私の本質が変わらないなら。
「わかった」
 モナが言って、そして全員が帰っていった。
 涙がこぼれそうになった目をぐしぐしと袖で拭って、私はPCの前に戻った。




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