新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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923: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 19:56:31.30 ID:TPJ777ywO

誰よりも早く動いたのは平沢だった。それは動作を開始した時点という点でも、動作そのものの素早さという点でも、その両方の意味において、永井に微笑みを与えている佐藤や笑い声を廊下中に響き渡らせている平べったい頭の黒い幽霊たちよりも素早く迅速に行動を始め、気づいたときには終わっていた。

平沢は拳銃を麻酔銃に持ち替えると、永井だけしか見ていない佐藤めがけて麻酔ダートを撃った。

麻酔薬の詰まった矢が水平に真っ直ぐ飛ぶ。帽子の男から溢れ出た黒い幽霊たちは矢にまったく無関心で、視線を投げることも見送ることすらしなかった。


佐藤「あ、しまった」


胸に刺さったダートを見下ろしながら、佐藤が言った。


佐藤「油断しちゃった」


まるで全身を支えている骨がとつぜんすべて無くなってしまったかのように両足がくにゃりと曲がり佐藤は崩折れていった。平沢は佐藤が床に倒れるまでの間にナイフを握った左手が右の手首に伸びていく様子を目撃した。そのことに気づいていたのは平沢だけだった。

フラッドによって発生した幽霊たちは倒れる佐藤に眼もくれず、永井の首にじっと視線(もちろん眼球など有していないが、その先細る矢じりのような頭部の先端すべて)を送っていた。幽霊たちの視線はとある実現の可能性が濃厚な予感がを永井に与え、その予感によるひりつく恐怖が首輪のように喉を締め付け、永井をその場に拘束させたかのように動けなくしていた。

そのようなとてつもない恐怖をあたえているIBMたちだったがそれらにぜんぜん悪意はなく、ただたんに自らが発生した原因、存在理由の根本にいっさいの疑義を持つことのないままそれを遂行しようとする。

それら──十二体のIBMたちは永井を断頭するために発生した存在だった。



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