761: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/01/26(土) 21:46:00.22 ID:ymR8HEsBO
火災警報によって永井が眼を覚ます四時間前、杖をついた男がゆっくりと歩きながら検問ゲートまでやってきた。
暦の数字はすでに秋の季節に入り込んでいたが、気候はそのことをまったく気にせず引き続き夏の暑さをそのままにしていた。
出社する社員たちは空調が放つ冷気が頬を撫でる感触にひと心地つきながら、杖の男を抜き去っていった。男は小太りでその体型の原因はもっぱら運動不足のせいなのだが、筋肉の少ない右脚をみるにそれを理由に責めることはできない。男はネクタイをし、ワイシャツの上から作業用のジャケットを着ていたが汗ひとつかいていなかった。抜き去り際に障害のある脚をちらと見やる社員の視線を気にもとめず、透徹すぎて何も見ていないと思える眼で検問ゲートの先を見つめていた。
検問に到達すると男は杖とリュックを警備員に預け、社員証を提示した。IDが照合され、男は金属探知機へとむかう。探知機が反応し、警備員がハンディ型の探知機を手に持って検査の続きを行った。胸ポケットに反応があり、ポケットの中身を取り出してみると、オイルライターとタバコが出てきた。
「所定のスペースで吸えよ」
検査物を返却された男は杖でこつこつと床を鳴らしながらエントランスをまっすぐ進んでいたときと同じゆっくりとした速度でエレベーターへと向かった。エレベーターに乗り込み、セキュリティ・サーバー室のある十四階のボタンを押す。
階数標示の数字が増していくのを見つめながら、奥山真澄は肩を壁に預けて、エレベーターの上昇に身を任せた。
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